コミュニティ・短編家
お題・ハサミ×海水浴
赤いの
「え?」
何処かから声が聞こえる。僕は周りを見渡した。人なんているはずがない。だってここは、僕しか知らない。僕しか知らない秘密基地。
赤いの
「赤?誰が?」
赤いのがいい
「何が?誰なんだ」
赤いの
「…」
赤いのが
赤いのがいい
赤いのがいいって
あの子が
あの子が言ったの
言ったの
言ったのよ
気付くと僕は砂浜の上に倒れていた。頭を振りながら立ち上がる。僕は海を見る。朝日が昇っている。夢だ。なんだってこんな夢…。まだ、混乱してるのか?
足下を見る。妙に薄汚れた砂だった。
「ねぇ」
ハッと振り返る。腰辺りまでの長い髪。真っ白なワンピースを着た、5、6歳位の少女が立っていた。
「ねぇ、わかる?」
少女は微笑みながら言う。真白な肌。小さく形のよい唇。
僕は動けない。何だか誰かに似ている気がする。でも、何故か何も思い出せない。頭がぼんやりと痛むのだ。
少女は笑う。
「わかる?貴方、わかる?」
「わかるでしょう、貴方なら」
「この砂ね、灰で」
「灰でね」
「灰でできてるのよ」
「ねぇ、わかる?」
「何の灰か、わかる?」
「赤が」
「赤がいいの」
「私、赤がいいの」
僕は叫び声を上げていた。少女はなおも笑い続ける。ワンピースは、いつのまにか真っ赤になっていた。血のように真っ赤な。
貴方
貴方が
貴方が殺した
貴方が殺したのよ
ハサミ
綺麗なハサミ
見て
真っ赤に
綺麗ね
真っ赤になったのね
私
私と
私とおんなじね
ねぇ
わかる?
わかるでしょう
誰の灰か
わかるでしょう、貴方
私よ
私が
貴方の足に今
私が
まとわりつく
貴方の足に
手に
今
はりついてるの
はりついてるのよ
僕はいつのまにか秘密基地に倒れていた。僕はカシャンとハサミをとり落とす。
秘密基地の奥には“赤くなってしまった白いワンピース”を着た彼女が寝ている。ただ、じっと寝ている。じっと、じっと寝ている。砂になるまで、彼女は眠る。
作品名:コミュニティ・短編家 作家名:川口暁