小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

コミュニティ・短編家

INDEX|20ページ/27ページ|

次のページ前のページ
 

お題・おいてけぼり


私は待っていた。
彼が私を初めて見たのは、朝から雪の降る日のことだった。
「お。」
と彼は言った。
風になって飛んでいってしまいそうな男だった。
するりと消えてしまいそうな。
「めずらしいな。」
そう言って彼はくしゃりと笑った。
私は恥ずかしくなって少し隠れた。
「隠れなくても大丈夫だよ。」
くすくすと彼は笑う。私は心臓がどくどくと鳴るのを聞いた。確かに、聞いた。
彼はしばらくこちらを見ていたけれど、やがて諦めた様な満足した様な顔で去っていった。
彼が消えた後、私はすくりと立ち上がって葉っぱを一枚千切った。
一本道。
追いかけて、追いかけて、はっと息を止めた。
気付かれない様にそっと彼を見た。
彼は美しい少女と笑い合っていた。
真っ黒な髪が緩やかなウェーブを描く。
口許にほくろがひとつ。
真っ白なワンピースを着ている。
私は、唇を噛んで見ていた。
いつまでもいつまでも見ていたかった。

あの日から彼はまだ一度もここを通らない。
私はずっと待っているのに。
おいていって。
おいていって。
あなたの心をここに。
私は待っているのよ。

漆黒でウェーブを描く髪を持ち、口許にほくろのある姿で。
真っ白なワンピースを風に游がせ、あなたを待っているの。

「あそこの堀でさ」
「白い綺麗な狐を見たんだ。」

彼女にそう言ったあなた。
私がその時、
嬉しくて嬉しくて、
飛び上がりそうだったことも知らずに。


待っているのよ。
待っているのよ。
おいてけ堀で一人、
あなたを待っているのよ。
作品名:コミュニティ・短編家 作家名:川口暁