コミュニティ・短編家
お題・深夜の電話×レモングミ
「レモングミ買ってこい。」
またあいつからの電話だ。
一体何時だと思ってるんだ。
あいつはいつも昼夜関係なく、しかも深夜であるほど嬉しそうに、私に電話をかけてくる。
やれ綿棒買ってこいだのやれ糸こんにゃく買ってこいだの頼まれるものはいちいち単価が安いのだが、如何せん頻度が高過ぎる。
しかも今日の私は昨日の夕方からよっぴいてやっていた恋愛シュミレーションゲームで愛子嬢を落とすべく奮闘していたので非常に眠い。
どんなに眠いかと言うと3時に寝てその15分後に起こされるという最悪のタイミングだと言えばよくわかるだろう。
そんなわけで電話が切れたあと私は怒りの雄叫びを上げた。
「あいつなんか…あいつなんか…レモングミになっちまえ!」
そう叫んで財布掴んで深夜のコンビニに駆け込む私。
あぁなんて健気なのだ。
愛子といいあいつといい私は健気という言葉がよく似合う。
ついでに餅巾着を購入しコンビニ前でヤンキー座りをして食べた後、私はやつの住むアパートに向かった。
なかなかたかそーなアパートで私はここに来るたびに歯軋りをしている。
「おい!買ってきたぞバカヤロー」
しかしそこにあいつはいなかった。
いたのは180センチくらいつまりはちょうどあいつぐらいの大きさのレモングミだった。
「えー?まじで?」
困った私は買ってきたレモングミの袋を破るとレモングミを食べた。
意外にも美味しく、半分くらいまで食べてしまった。
巨大レモングミは動かない。
「ねぇー」
私はぼんやり考える。
やっぱりこれはあいつなんだろうなぁ。
言霊なんて信じたことなかったけど、ほんとにあるんだなぁ。
「あんたそんなんになっちゃってこれからどうするのよ。」
レモングミは動かない。
せっかく健気な私が来てやったというのに。
「…あんたさー、なんでいっつも私のこと呼び出すのよ。こんな夜中に誰かに襲われたらどうしてくれんのよ。ていうか眠いのよ。何考えてるのよ。」
レモングミは動かない。
「ねぇ。あんたさー…」
レモングミは動かない。
「私のこと好き?」
レモングミは、あいつは動かない。
私は少し焦りだす。
とんでもないことを聞いてしまった。
それなのに何で動かないんだ。
何でバカじゃねーのって言わないんだ。
自意識過剰だってどつかないんだ。
まさか
このまま戻らないんじゃないだろうな。
「…ばかやろう…。」
私は巨大レモングミにかじりついた。
巨大レモングミはあいつに戻った。
「うん、好き。」
レモングミ…じゃなかったあいつは、私にキスをした。
作品名:コミュニティ・短編家 作家名:川口暁