コミュニティ・短編家
お題・泣けばいい
ナケバイインダヨ
(泣いたら喰われっちまう)
ナケバイインダヨ
(泣いたら喰われっちまう)
ドウシテ
ドウシテ
ナニモイッテクレナインダイ
カアサンハ
カアサンハ
セッカクオマエニ
オマエニアイニキタノニ
ウレシク
ウレシク
ナイノカイ
その通りだった。
僕は本当に本当に母さんに会いたかった。
僕が生まれてすぐに死んでしまった、写真でしか知らない母さんに。
本当は嬉しくて嬉しくてたまらなかったのだ。
嬉しくて泣きたくてとびつきたくて。
…だのに、駄目なのだ。
何かが僕の腕をがっしりと掴んで囁くのだ。
(泣いたら喰われっちまう)
(泣いたら喰われっちまう)
(泣いたら…)
僕は怖くて訳がわからなくて泣きたくてたまらなくて唇をぎゅっと噛みしめた。
その「声」が怖いのか、母さんが怖いのか、はたまたこの空間自体が怖いのかちっともわからなかった。
ナケバイインダヨ
(泣いたら喰われっちまう)
母さんに泣いてすがるべきか。
声を信じるべきか。
ナケバイインダヨ
(泣いたら喰われっちまう)
ナケバイインダヨ
(泣いたら喰われっちまう)
カアサンハサミシクテ
サミシクテタマラナカッタカラ
(泣いたら喰われっちまう)
オマエニアエテ
(泣いたら喰われっちまう)
ウレシクテウレシクテ
(泣いたら喰われっちまう)
ナイテシマイソウナンダ
(泣いたら喰われっちまう)
デモ
…え?
デモ、アノヒトハ
アノヒトハ
ナカセテハイケナイネ
そう言って、泣いていた母さんはふわっと笑った。
気付くと僕は真っ白で明るい部屋にいた。
どうやら僕はベッドで寝ていて、体には管やら何やらがついているみたいだった。
今いち状況のつかめないままちらと横を見ると、ぎゅうぎゅうと僕の腕を握りながら泣いている父さんがいた。
僕の前では一度も泣いたことのなかった父さんが、これでもかというくらいぼろぼろと泣いていた。
「…お前まで…お前まで、父さんより先に逝かんでくれ…。」
父さんが絞り出すような声で、ポツリと囁いた。
作品名:コミュニティ・短編家 作家名:川口暁