コミュニティ・短編家
お題・蜜柑
八重歯。
真木と言えば八重歯だ、と僕は勝手に思っている。
そんな八重歯の真木はこたつにくるまって眠たそうにテレビを見ていた。
僕らのテレビは分厚くて小さくて、どう考えても地デジ対応なんてしてなさそうな代物だ。
そしてその古くさいテレビとこ汚いこたつと八重歯の真木はしっくりと合うのだった。
それは僕にとっての完璧な風景だ。
少し寝癖のついた真木がいて、こたつは暖かくて、テレビは緩やかにしゃべっていて、それ以外に何がいるっていうんだろう?
と、満足をした僕は溜め息をつく。
真木は怪訝な顔で僕を見た。
少し細い目に、薄い唇。
完璧だ、と僕はもう一度思う。
そういや村上春樹の短編でもそんな話があったな。
100%の女の子の話。
僕にとって真木は、つまりそれなんだ。
真木はおよそ美人とは言えない顔でしかめつらをした。
「…なんか」
「え?」
「なんか足りないのよ」
僕の足に真木の足の爪が当たる。
僕はなかなかショックが離れず、酸欠の金魚みたく口をパクパクしていた。
「…そうよ、足りないわ。」
「足りないのよ。」
真木はこれでもかと言うくらい何度もそう言う。
僕はそのたびにこの四角いテレビで頭を殴られた様な気分になる。
「蜜柑がないのよ。」
真木が大真面目に僕を見た。
僕はもう一度「完璧だ」、と呟いた。
作品名:コミュニティ・短編家 作家名:川口暁