彼と私いじめ
情けなくて身内のこっちが泣けてくる。それがみっともなくて机にうずくまった。しばらくして顔を上げると、壁谷くんと私の間にチョコサンデーがあった。
「どうぞ」
ソフトクリームとチョコの味がした。単純すぎるよマック。
全ては赤ちゃんを作るためでしょ。男が女にモテたいのも、女が男にモテたいのも、根本的には優秀な子孫を残したいから、でしょ。美人がいいのも頭のいい人がいいのも、そういう理由。でもセックスして、たまたま赤ちゃんができればいらないってなんだそれ。この際セックスはただのエロい行為にすればいい。人間全員人工培養にしろ。ヤりたいやつだけヤればいい。
私はブスで、胸がなくて、お腹がぷよぷよで、足が太い。お尻が重い。でも可愛いよって言われたい。どれだけ可愛くなくたって、君が一番可愛いよって言われたい心底言われたい。でもセックスはやだ。なんでどうして男は恋愛の中の半分くらいを性欲にするんだろう。私から女ってことをとったら何が残るんだろう。セックスできない女なんて男にとってなんの意味があるんだろう。
「どうしたんですかぼーっとして」
「は」
「くち開きっぱなしですよ」
「何みてるんですか!」
怒ると、壁谷くんはニコニコした。
壁谷くんいいよね。
何そのセリフ少女漫画じゃあるまいし、って笑ったら、ちょっとそう思ったんだもんってどこかで聞こえた。全然じゃん。そう言い返したのに畜生。バカじゃないの本当に。バカの頂点。
昔っからそうだ。馬鹿な理由ばかり。小学四年生の時に机にした落書きはたしかピカチュウ。目がやたらとでっかくて、尻尾がやたらとふにゃふにゃな。それをクラスで一番絵の上手い女の子に下手くそって笑われた。どうやったって言い返せなくて机で泣いてたらあいつが来た。どうした、って聞かれたからそのまま言った。そしたら当たり前みたいに、お前、絵、すっげえ上手いぞ。全然下手じゃないぞ。
成長しないな私は。
でも、勝手に蓄えた知識と偏見と僻みをこねくり回しているよりは、健全なのかもしれない。
「あれ、並木さん今日は早い」
「レポート出すだけだったんで」
「なんか懐かしいもの描いてますね」
「なんだかわかります?」
「ピカチュウですよね。あ、ライチュウ?」
「ライチュウ可愛くなかったから、かみなりのいしずっと使わなかったんですよ私」
「それわかります」
壁谷くんはマックのまずいコーヒーを片手で飲んで笑う。
それだけで傲慢なほどに彩られる、久しぶりの感覚。
さて、どうやって可愛いって言わせてやろう。