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かいごさぶらい
かいごさぶらい
novelistID. 16488
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GHQと撃剣(前編)

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「日本刀で鉄カブトが斬れるかどうか、やって見せてくれ、と言うのが、彼等の望みなんです」終始変わらぬ穏やかな口調だが、その眼は下妻の覚悟を探っているようだ。断れば、話は終わりだろう、間違いなくMPに引き渡される。頭のてっ辺から、足先まで日本兵が身にまとっている物は、全て、かしこき、から下賜されたものである。下妻も厭というほど、叩き込まれ、自分自身の部下にも叩き込んできたことだ。敗戦から一年あまり経ったとはいえ、その呪縛から逃れられないでいる。鉄カブトを、どうにかすることなど、論外だ。



「下妻さん、、、」変わらぬ声で断を迫った。終戦後、中国大陸から陸続と、疲弊しきった多くの日本兵が内地を踏んだ。だが、中には進駐軍(GHQをそう呼んだ)に、なを抵抗する者も少なくなかった。内地は焼け野原。家族を失い、住む所も、食料も、無い。隠し持った軍刀一口で、進駐軍を襲い殺傷する事件が相次いだ。所詮は蟷螂の斧、米軍の銃弾の前に斃れた。が、手首や足を斬られ、首が飛んだ、等など、噂に尾ひれが付いて、進駐軍の間で、日本刀の殺傷力に畏怖の念を抱かせた。GHQは、日本の武術や武道活動を即、禁止とした。武道関係の諸団体は全て解散させられたのである。



「断れる話じゃないでしょう、見せてやるしか、ないですね(武術は禁止だ、カブトを斬っても、約束はどうなるのか、知れたものではない)」真顔になって、答えた。その辺を察して。



「彼等はね~、半分ゲーム感覚なんですよ、米兵さんらは賭け事が好きでしてね、9対1だそうです」渡辺は苦笑いする。カブト斬りのゲームは、クリーフ中尉と一緒に帰国することになった部下達が、言い出したことらしい。賭けるのも彼等だ。下妻は、今日のラルコの表情の意味を悟った。(奴らは鉄カブトも試したのだろう、刀は腐るほどある)下妻は察した。



「9対1!?、、、何ですか?それは」



「鉄カブトの試斬ですよ、斬れない方に9、斬れる方が1、という、賭け率になってるそうです」渡辺庄一は以前、補給廠で野ざらしに積み上げられた刀剣を、警備の米兵達が取り出し、木の柵や金網などに、散々斬りつけている光景を何度か見かけた。ラルコ軍曹が、それを止めさせるのも見ている。



「明日のお昼前に、此処へ来て下さい、この建物の裏庭でやりますから、使用する御刀は用意しておきます」お膳立ては、全て渡辺が任されているようだ。今夜は、クリーフ中尉の帰国を祝し、パーティが開かれる、渡辺も招かれていると云う。



「分かりました」下妻は、渡辺に頭を下げながら礼を述べた。(クリーフ中尉のことだ、帰国前に俺達をMPに、、、)。渡辺庄一がそれを察して、手を打ってくれたのだ。