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かいごさぶらい
かいごさぶらい
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GHQと撃剣(前編)

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昭和20年8月、第二次大戦で日本は敗戦、連合国占領軍の支配するところとなった。武装解除で、銃火器類は無論のことだが、目の敵とされたのが「日本刀」であった。日本各地で、没収(接収)された刀剣類の多くは、穴を掘り、ゴミのようにガソリンをかけ、燃やされ灰塵と消えた。

 首都東京では、あまりの多さに処理が追いつかず、一部は東京北区の赤羽に米軍によって接収されたが、廃棄処分を免れた日本刀が集められ、野ざらし状態でうず高く積み上げられていた。



「少尉殿行きましょう」黒煙を見つめ、亡羊としている男を、連れらしき男が促した。戸越を過ぎたあたりだ。男は、煙を睨みつけるように、もう一度振り返った。戦後1年余りが経った、晩秋。



「では、今日はこれだけ、頂いていきます」この数ヶ月、二人の男(元日本兵)が月に二度、赤羽にある米軍の兵器補給廠にやってきて、刀剣をもらって帰る。男の一人が、新聞紙でくるんだ分厚い束を二つ、米兵に渡した。数人いた米兵達は、取引を見届けると、無言で散って行った。と、一人の米兵が。



「ちょっと待て」二人に近づき、声をかけた。



「何ですか?」呼び止められ、訝しげな顔を見せ、男達が振り返った。



「クリーフ中尉殿が、話があるそうだ、こっちへ来てくれ」(この米兵は日系二世だ、日本語も上手い)。



「シモ、あんただけでいい」シモ、と呼ばれた男が頷く。



「分かった、じゃ~、上等兵、それを頼む」麻の布で、頑健に梱包された荷を肩に担ぎ上げていた男が、顔をあげ。



「はーっ!少尉、、、ですが、、、分かりました」と、上等兵と呼ばれた男は、米兵に警戒の目を向け、何かを感じ、言い澱んだ。



「何時ものところで、待っていてくれ」言いおいて、男は米兵の案内される侭に、後をついて行った。接収された、刀剣類で破損のひどい物は廃棄処分となる。これは表向きの話で、廃棄処分と称して、米兵の幹部が横流しをしているのだ。廃棄するかどうかは、連合国司令部(GHQ)、担当幹部らの匙加減一つなのである。



「ラルコさん、MPに目を付けられたってことは、ないでしょうね?」男は、日系米兵を親しそうにそう呼んだ。そろそろこの取引は危うくなってきたことを感じていた。終戦から一年余りが経ち、美術工芸品として伝統ある日本刀を返還してほしい、とする嘆願が高まり、GHQ司令部に関係者らが日参している。横流しは公然と行われ、返還嘆願の関係者らは、憮然としていた。既に、夥しい数の日本刀が、海外へ持ち出されたり、ゴミクズ同然に燃やされ、スクラップとして廃棄処分になっていた。この赤羽の兵器補給廠には、未だ数十万口の刀が野ざらしの侭、生死を彷徨っている。



「さ~あ、私には分からないよ」日本人としての血が流れている、ラルコ軍曹にとっては、胸中複雑である。が、上官の命令には従わなければならない。日系二世の米兵は、海兵隊にも劣らぬ精鋭なのだが、評価は低い。



「ここだ、クリーフ中尉殿は直ぐ来ると、仰っていたから、しばらく待っていてくれ」見張りの歩哨小屋の裏手に、少し立派な洋館の建物があった。幾つもの、ソファーやテーブルが置かれ、高い天井からは、シャンデリアも吊り下がっている。大きな窓が四方にあり、晩秋の陽ざしが部屋一杯に広がっていた。



「へ~っ、立派なものだ!」正直、男は感嘆した。こんな、立派な所へ案内されるとは、思ってもいなかったのだ。下手すれば、MPにそのまま引き渡される、ことも覚悟していた。美術品として価値のある刀剣類は、選り分けられ、幹部連中が秘蔵している。選り分ける、刀剣類の鑑定を頼まれたのが、この取引のきっかけだった。



「そのへんに座って、ゆっくり待っていてくれ」と、ラルコは、肩に掛けた重そうな機銃を揺すりながら、去って行った。去って行くラルコの表情が気になった。クリーフ中尉は頭の切れる男だ。横流しの実態をGHQに告発していることを、既に知っているかも知れない。ラルコは感ずいているようだ。だが、彼は何も言わない。



「さ~て、こうなったら、吉凶どうでるか、腹を括るしかないな」ラルコの表情を読み、男は呟き、ソファーにふんぞり返って、一服つけた。中国内陸部の重慶で国民軍に包囲され、最期を迎えるはずだった。生きて、日本の地を踏めたのは不思議なくらいだ。紫煙を眺めながら思った。



「コツコツ」と、ドアを叩く音がした。男は慌てて、タバコを揉み消し、ドアへ向かった。



「ハロ~、シモー、マタセタナ」との陽気な声に。



「クリーフ中尉殿、お世話になっております!」男の名は、下妻秀次郎という、米兵達からは、シモと呼ばれていた。下妻は最敬礼をして、答えた。



「ノー、ノーノ、シィーッダウン、ユックリネ~」何時もと変わらぬ、声音だ。クリーフ中尉もシガーを取り出し、深々とソファーに。



「ウマクヤッテマスカ?」笑顔で聴く。が、鳶色の眼は笑っていない。



「はい、大丈夫であります」(たいした役者だ、腹も座っている)。司令部だろうが、MPだろうが、クリーフなら何とでもするだろう、と下妻は思った。



「OK、シンパイナイ」そんな、下妻の思いを見透かしたように、軽くいなす。その直後、トントン、とドアが叩かれ、二人の男が現れた。一人はラルコだ。ラルコが後ろに付いてきた、男を招じた。日本人のようだ。



「カモーン」の声に、ラルコは中尉に敬礼、連れてきた日本人に入るよう首で促し、入れ替わるように外へ出た。入ってきた日本人は背広の似合う、恰幅の良い五十絡みの紳士だった。



「下妻さんですか?」と、紳士が両手を差し出してきた。



「はい、下妻であります!」下妻も立ち上がり、その両手を受け止めた。それを見て。



「OK」と、クリーフ中尉は立ち上がり、紳士と握手、足早にそのまま出て行ってしまった。



「渡辺庄一です、話は中尉さんから、伺っております」紳士は、貿易商で、いま、米軍の様々な雑用を扱わして貰っていると言う。下妻はもしや、と思い。



「渡辺さん!?、、、あのう~、渡辺源一郎上等兵の縁の方ですか?」迂闊なことは、聞けないが問わずにはいられなかった。



「はい、源一郎は私の甥です」紳士は穏やかな口調で。



「えっ!、甥子さんでしたか、、、」下妻は言葉に詰まった。紳士の顔を忘我の境地で、ただ見つめた。その表情は何もかも承知、と読み取れた。渡辺上等兵が、下妻を東京へ連れてきたわけが分かった。



「下妻さん、甥のことは、後ほどゆっくり、大事な話があります」ソファーに、腰を下ろしテーブルに身をのりだして、語った。クリーフ中尉が数日後に本国へ帰ること、取引は今日が最期であること、下妻らが横流しの実態を自らがやっていると、身を挺して司令部に訴えていること等だ。下妻は、この紳士がどういう経緯で、これらの情報を得ていたかの、一切を飲み込んだ。



「下妻さん、中尉さんは、全てを帳消しにして、帰国することを望んでおられます。ちょっとした部下達の望みを承知してほしいとのことです」



「部下の!?その望みと言うのは?」気がかりを尋ねた。