ヤドカリ
2
頭がぐるぐるする。
ちょっと、深呼吸したいな。
酸素を求めて唇を離せば、葵はいとも簡単に私から離れていこうとする。
まだ、離れたくないのに。
柔らかめの髪の感触を楽しんでいた手を頬に添えてみた。吸い付くような肌のきめ細かさと柔らかさが気持ちいい。
もっと葵に触れたい。
触れられたい。
「ねえ、葵」
私を見下ろす彼女の名を呼ぶ。
葵の長い前髪から覗く目が好きだ。
だけど、今は蛍光灯の灯りがまぶしくてよく見えない。
残念に思いながら、頬に添えていた手を首筋を辿りTシャツから覗く鎖骨に滑らせ、その形をなぞる。
やっぱり、葵の鎖骨は綺麗だ。
もう一度、葵の目を覗き込む。
やっぱりよく見えない。
さっきから無言で嫌がるでも応じるでもなく、動きを止めてしまった彼女。
ねえ、誘ってるんだよ。わかってる?
それなら、とまだ首の後ろに回したままの腕に力を込める。何の抵抗も無く近づいてくる唇をもう一度奪うと、そのままごろりと横に転がって二人で向き合って寝転がる体勢になった。
唇だけを離し、鼻先をこすり合わせながら目を開けると葵の視線とぶつかった。それだけでアルコールの混じった血が沸騰する。
たまらず首筋に唇を寄せると、葵はびくりと震えた。構わずその首筋を味わいながら、胸を撫ぜれば、力なく私の腰にぶら下がっていただけの腕が意思を持って動き始めた。
あ、嫌がられるかな。
「ん!!」
予想外に腰を撫でられ、体の芯が震え、声が漏れた。触れられたところが熱い。
「遥」
ようやく葵から発せられた声が耳元をくすぐる。それだけのことなのに息が漏れる。
たまらない。
「葵、好きだよ」
耳元で囁いた。
もっと。
もっと触れたい。
触れられたい。
もっと感じたい。
感じさせたい。
初めて直に触れる葵の滑らかな肌も、薄い胸も、肉付きの悪い太腿も、潤った粘膜も、全てが愛しくて、その全てを味わいつくしたかった。
葵の手が、指が、唇が、舌が、髪が、吐息が、何もかもが触れるたびに私の体を熱くし、彼女を求める気持ちは泉のごとく溢れ出す。私はその全てに酔いしれ、嬌声を上げた。