小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

不思議なアフタヌーン・ティー

INDEX|4ページ/4ページ|

前のページ
 

今夜のドレスは、白いデイジーの花をイメージした真珠の刺繍を、全体に散りばめた青いドレス。姉は、派手になり過ぎない抑えた色のピンクのドレス。どちらのドレスも、姉妹をより可憐に引き立たせている。
姉は舞踏会が始まってすぐ若い男性からダンス相手の申し込みを受けていた。母親の方は、上流貴族の夫人たちへの挨拶回りに余念がない。
(あの方、この近所に住んでいる方だから、今夜は招待されているはずだけど)
昼間出会ったあの背の高い青年を見つけ出そうと、ダンスの輪の間を見回す。だが、どれだけ探しても、青年は見当たらない。
想う人のいない舞踏会場は、どんなにきらびやかでも、寂しく退屈なものだった。今夜は期待はずれに終わってしまうようだ。
むなしい気分のまま席を立ち、硝子の扉を開けてバルコニーに出た。
澄みきった夜空に星が瞬いている。
(占いなんて、やっぱり当たらないわね)
 アリスは大理石の欄干に持たれて、小さくため息をついた。
春の夜風はまだ少し冷たい。
冷えた両腕を、手袋を嵌めた手で摩った。
その時背後から、誰かが近づいてくる気配がした。
「白ウサギのお嬢さん」
聞き覚えのある低く穏やかな声に、アリスは飛び跳ねるように振り返った。
そこには昼間出会った、あの背の高い青年が立っていた。
昼間の見たクロケットのユニフォーム姿とは打って変わって、夜会用の燕尾服で正装している。見た目はまるで別人のようだったが、身に纏う優しい雰囲気だけは変わっていなかった。
「まだ白ウサギを探しているの?」
青年はおどけたように右手を目の上に当てて、ウサギを探すそぶりをした。
思わぬ再会に、アリスの胸の鼓動は激しくなった。
彼はアリスの横に来て、二人は向き合う姿勢になった。
「呼び止めても無視されて、置いてきぼりだなんて、ずいぶんひどいな」
「昼間は本当にごめんなさい」
アリスは首をすくめて謝った。
「誤らなくていいさ」
「でも……」
 楽団が奏でるワルツの音が、閉じた硝子の扉から漏れてバルコニーまでかすかに流れてくる。
「お詫びの代わりといってはなんですか、僕と踊っていただけませんか?」
 青年はウィンクするように笑って、アリスに手を差し伸べた。
さりげないダンスの申し出に、アリスは顔を赤らめたが、素直に頷いた。そして、その手に自分の手をのせた。
 青年のリードに合わせて、ワルツを踊る。
彼はダンスがとても上手だった。
さっきまで、もう二度と会えないかも、と思っていたのに。夢を見ているような気分だった。
(白ウサギには追いつけなかったけれど、もう一度不思議の国へ来ちゃったみたい)
「昼間の話の続きなんだけれど」
踊りながら、青年はそう言ってアリスの瞳を覗き込んだ。
「君の方の紅茶占いの結果は、結局どうだったの?」
満天の星空の下で青年とワルツを踊りながら、アリスは微笑みを浮かべただけだった。