青い満月のフォーチュン
「占星術では全ての運命が、惑星の運行に定められていることになっている。人間の力ではどうしようもないことが、この世にはある」
分かるような気がした。恋は終わった。これは運命なのだ。他人の心だけは、どうしようもない。
「気持ちを手放す、魔法ってあるの?」
「さあな」
オリアスは肩を竦めた。
目を閉じ、瞼の裏に今宵の月を浮かべる。人生が手に入らないもので溢れていたとしても、世界は完璧だ。胸に手を当て、想いを掌にのせた。
「さようなら、私の初恋」
想いは月光に溶けた。そして次の瞬間、降り注ぐ光が透き通った青に変化した。
驚いて見上げると、満月もまた眩い青の光で包まれていた。先程より、さらに大きく見える。
「……青い満月……ブルームーン!」
オリアスも月を見ていた。横顔の綺麗な輪郭が、くっきりと浮かび上がっている。月は占星術で感受性を示す。彼にも答えが出た。
「……オリアス、最後にもう一度だけ、空を飛んでもいい?」
「ああ、いいだろう」
ふふ、と笑って梅乃の頭に魔女の帽子を被せた。颯爽と竹箒に跨る。
「あの月まで、飛べるかしら?」
「……そうだな、私が手伝ってやってもいいぞ」
練習していた頃のように梅乃のすぐ後ろに跨ると、柄を握る手に両手を重ねた。何故か胸がドキドキする。
ふいに誰かの視線を感じた。足元を見ると、あの黒猫がいた。黒猫は金色の眼で二人を見ると、ニヤリ、と笑ったような顔をした。
前を向き、青い満月を見つめる。そして、月に願いをかける。これが月の魔巫女の最後の飛行。そして地上に戻れば、如月梅乃は元どおりただの巫女に戻る。
「さあ、いくわよ!」
思いっきり地面を蹴った。
竹箒は月に向かって上昇を始めた。小袖と袴の裾が、風に翻る。地上の夜景がどんどん遠ざかっていく。
「魔王ルシフェルの祝福を受けなくとも、魔女になれる方法が、もう一つだけある」
オリアスが、前かがみになり耳元でそっと囁いた。
「それはお前が、私の恋人になることだ」
耳たぶを甘噛みし、頬に優しくキスをした。
青い光を放つ大きな満月に向かって、二人はいつまでも飛び続けた。
作品名:青い満月のフォーチュン 作家名:楽恵