真実の鍵 ―解決編―
チェックメイト
「そうですよね。黒畑 水梨さん!」
「――っ!」
犯人の黒畑さんは息を飲むと同時に部屋に居る全員の視線が集まった。
黒畑さんは今の空気を破るかのような大声を出した。
「待ってください! 袋を盗むことも鞄を置くことも気づかれずにどうやってやるんですか!」
「……あなたは悲鳴を聞いてすぐに駆けつけたと言っていました。そのとき、南城さんとメイドさんは被害者の近く、そしてあなたは机の近くに居た。
被害者を見ている南城さんとメイドさんは机の方向に背を見せなければならないんです。だからあなたは気づかれずにその動作を行う事が可能なんです!」
「……わ、私にはアリバイがあります!」
焦ってきた黒畑さんに私は笑みを見せた。
「メイドさん。さっきの無言電話の時間は何時ですか?」
「え、えっと……14時ぐらいです」
いきなり話を吹きかけられたことに驚きを感じながらもメイドさんは答えた。
「さっきの事と合わせれば犯行は14時台。あなたは16時29分に被害者から電話をかかってきたと演技をしただけです!」
「……証拠は、あるんですか!」
どもりながらも反論する南城さんを数秒間見つめていたが横にいた音羽警部を見た。
音羽警部は待っていたと言わん顔でスーツから今回の事件の“鍵”を取り出した。
「これが今回の証拠です」
私は袋に入っている証拠を皆に見せた。
「……比果さんの手帳」
つぶやく様に南城さんが言った通り今回の“鍵”は比果さんの手帳。これが私の最後の砦だ。
「この手帳には比果さんの毎日の予定が書いてありました」
私は袋から手帳を取り出すとゆっくりとページをめくり始めた。
「そこに私と会う予定でも書かれていたんですか?」
黒畑さんの声を聞くと同時に私はページをめくる手を止めた。
「いいえ。書いてありません。事件があった日の予定は何一つ」
「やっぱり」
さっきまで焦りを感じていた黒畑さんの表情に少し笑顔が戻った。
でも私の砦は破れない。
「ここで一つ……これを使ってみたいと思います」
私はポケットの中からライターを取りだした。
「昔、やった人がいるかもしれませんが発火点の違いを利用した被害者のダイイングメッセージです」
私は事件があった日の手帳のページの裏にライターの火を近づけた。
「まぁ、簡単に言って仕舞えば……あぶりだしのことです」
ライターの蓋を閉じて日を消すとあぶり出しによって出て来た字を確認した。
「きっと被害者は何かが起こるかもしれないと予期していたのかもしれませんね」
手帳を皆に見せるように私は持った。
事件当日のところに書いてある字は茶色で“南城、資料室待ち合わせ”と書いて合った。
「これが証拠です」
私はそれを言い終わると口を真一文字に結んだ。
手帳の字を見ていた南城さんは目を見開き驚いていたが、すべてがわかると軽く鼻で笑った。
「終わっちゃったな」
「……認めるんですね」
私の問いに南城さんは小さく頷くのを見ると出入り口の近くにいた刑事達が動き出した。
南城さんは深い溜め息をついた。
「ま、自業自得なのかな。私も、比果も」
「……あなたの元彼氏さんも?」
「そうね」
あきれた声を出しながらも南城さんは髪をかき上げた。
作品名:真実の鍵 ―解決編― 作家名:古月 零沙