「進化という、退化」
まず、電磁波をこの星に飛ばし、ある一定の人間を操る。それは、ほんの一部の者だけ感じる事の出来るものである。
そして、受信可能な者が見つかれば、それに母星で暮していた頃の文明を送信するのだ。そうする事によって、自分たちが暮らしていた頃の星と、全く同じものを作ろうとしていると言うのだ。
「この星の進化、不自然だとは思わないか?」
説明を止め、草薙が問う。
「車・飛行機・核・バイオテクノロジー、この急激な進化を、変だと思ったことはないか? 特にこの六十年の進化は目覚ましい。少し前までは、考えられもしなかった事が既に現実になっている」
こう告げる草薙に対し、
「確かに。過去の発明家や、偉人の発想も不思議なモノは多いですね。どして、その時代に、そんな発想が? みたいな……」
吉園は、今までの説明を聞き、深刻な表情で答える。
「それもその筈だよ、彼らこそ、その電磁波を受信できた者たちなんだから。そして、その結果、文明は飛躍的に進歩した」
草薙は足を組み変え、煙草をポケットから出した。そして一本咥えると、火も点けず続ける。
「しかし、文明の進歩には必ずと言って良い程戦争が絡んでいる。これは正に、奴らの母星が辿った運命を辿っていると考えて良いだろう」
説明を続ける草薙を吉園が遮る。
「解りました! その話は解りました。で、それが、僕と何の関係があるんですか?」
そう尋ねると、草薙は咥えていた煙草に火を点け、前かがみになると
「その偉人達も、皆夢からアイデアを得ていたんだよ。本人たちは気付かないままな。従って、君が今回行ったバイオテクノロジーの研究も、その異星人達からのメッセージである可能性が高い。つまり、その研究を止める必要があるんだよ。その為に、俺は君の会社に上司としてもぐり込んだんだ」
草薙はそう説明すると、本当に異星人達からのメッセージかの確証が持てなかった為、対処が遅れた事を付け加えた。
「冗談じゃない! こんな大切な研究を、そんなにわかには信じられない話で、フイに出来る訳無いでしょ!」
怒りを露わにし、立ち上がると吉園は部屋から出ようとした。
「待て!」
草薙が腕を掴んだ瞬間、急に蹲ると
「グゥゥゥゥ……」
と、唸り始めると、突然草薙に回し蹴りを見舞い、部屋から走り出す。
「うわっ!」
草薙は尻もちをつく。
「逃がすな! 追え!」
草薙が命ずると、部下は吉園の後を追った。
その時、草薙の無線に各地に飛んでいたエージェントから次々に連絡が入る。
――こちら、バイオテクノロジー研究所です! この研究員はかなりの人数が受信していた模様です! 皆豹変しました! 研究ラボから百体を超える実験体が放たれました! この実験体は、恐らくあの異星人のコピーだと思われます! うわっ! 来るな! 来るな! ――
叫びとともに通信が途絶える。各地のあらゆる研究所が占拠される。
重要な施設が占拠されたこの星に成す術はなかった。呆気無い程あっと言う間に制圧されてしまった。各国の重要人物も多数受信していたと言うのが、制圧を二週間と言う短期間で許してしまった要因でもあった。
「もう駄目だ。まさか此処まで準備がされていたとは……もう我々に成す術はない」
草薙は途方に暮れた。
その草薙の横にあったテレビから、臨時全世界中継が流れる。
『本日ヲ持ッテ、コノ星ジーク星ハ、我々ノ統治下ニ入ッタ。今後ハ我々ノ祖先ガ以前住ンデイタ、地球ニ少シデモ近ヅケル事を目指スモノトスル! 以上!』
中継を終えた侵略者の長は、並ぶ仲間に高らかに宣言した。
「本日よりこの星は我らのものだ! 我ら地球人が母なる地球を失い、彷徨う旅は辛苦極まるものだった! しかし、我々は第二の地球を手に入れた! 本日を建国記念の日と定める!」
この日から、何も学ばず、進歩の無い地球人の絶滅へのカウントダウンがまた始まった――
作品名:「進化という、退化」 作家名:syo