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「進化という、退化」

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「おまえやったなぁ! 今回もお前のお陰で、このプロジェクトは大成功だよ! これで、この国の将来はかなり明るくなるぞ!」
 居酒屋の席。バイオテクノロジーを研究する会社の上司、草薙は上機嫌でビールを注ぐ。
 後輩研究員の吉園は、嬉しそうに照れ笑いしながら、飲めもしないビールを受けていた。

 吉園はこの数回に渡り、斬新奇抜なアイデアを提案し、仕事を成功に導いていた。しかし、以前の彼は今とは全く逆の、落ちこぼれとして社内で有名だった。
 何をさせても期待を下回る結果しか出せず、応用力がない。意見を求めれば、的外れなものばかり。その上、仕事も遅いため、皆からも疎まれていた。
 それが三か月程前から、急に変化を見せ始めたのだった。初めこそ皆、
「お前余計な口出しするな! お前の意見は聞いて無いんだよ!」
 等と全く相手にしていなかったが、急に的確な意見を言い始めた吉園に、皆驚き、徐々に耳を傾ける様になっていったのだ。
 すると、斬新さから、様々な意見が採用され、彼は頭角を現し始めた。

「しかし、お前何で急に変ったんだ? まあ、俺は中途入社だから、以前の事は聞いただけだが、かなり落ちこぼれで有名だったんだろ?」
 酒がかなり回ってきた様子の草薙は、少し吉園にからむ様に問う。
「いやぁ、実は……誰にも言わないで下さいよ? 実は最近、夢を見るんです。仕事の事を考えながら寝ると、その晩、夢の中で会議が始まるんですよ」
 吉園が言うにこうだ。
 まず、円卓に自分を含めた五人が座り、会議が始まる。自分から見て、右側に二人、左側に二人といった感じらしい。そして、
「それでは、会議を始めます」
 と言う自分の号令で、毎回始まると言うのだ。そこでは、今まで全く考えられなかった様な、斬新な意見が山のように出てくるらしい。
 右側の二人は、常に肯定派であり、左側の二人は常に否定派と言うのも、この会議の際は常であった。そして、より自分に近い席の人間が、より過激な言い合いを繰り広げる。
 その説明を虚ろな目で聞いていた、酔っ払いの草薙は、
「ほ~う。夢でまで仕事の事を考えているとは、関心関心!」
 幾分か、ろれつの怪しい口で褒めながら、吉園の背中を叩く。
「で? 後の四人はどんな奴なんだ? 俺とかも入ってるわけ? ビシッバシ良い意見言うんだろ?」
 鼻の頭をほんのり赤く染め、ニヤニヤしながら、問いかける草薙に、吉園は答える。
「いえ。それが、全員自分なんです。自分が五人で会議しているんです」
 からむ草薙を少し鬱陶しく感じながら答える。
 
 この自分会議で、吉園の色々なアイデアが生まれていたのだ。
 通常、夢とは起きてから、時間の経過と共に薄れて行く。そして、一時間も経てば、雰囲気は覚えているものの、詳しい内容までは忘れてしまう。
 しかし彼の場合、事この自分会議に限っては、全くそれが無いのだ。目が覚めてからも、物凄く鮮明に覚えている為、内容を漏れなく全てメモに書き出す事が出来るのだ。
 そしてそのメモを文章化すると、会社のプレゼンで発表する。そうすれば、発表中も夢の内容が事細かに思い出されるのだ。そうした会議では必ず称賛を浴びるのだった。

「お前不思議な奴だなぁ。普通、夢なんてスグ忘れちまうのになぁ」
 草薙はそう告げると、トイレに立つ。
 草薙が居なくなり、一人になった吉園は、グラスのビールを少し口に含む。
「うわぁ、やっぱり苦い。これの何処が旨いんだろ?」
 顔をしかめると、
「すみませーん! 烏龍茶下さい!」
 と店員を呼びとめる。
 そんな吉園に、突然男が話しかけて来た。
「あなた、先程から聞いていたのですが、変な夢を見ているようですね? 少し詳しく聞かせて頂けませんか?」
 その男は、夜にも関わらずにサングラスを掛け、黒のトレンチコートという、居酒屋には似つかわしくない身なりだった。
「あなた、何なんですか!?」
 吉園は、露骨に不快感を表す。
「失礼。盗み聞きした事は誤ります。しかし、急を有するんでね」
 こう告げると、男は小さな針のような物を吉園の太ももに刺した。
「痛っ!」
 と言った次の瞬間、吉園は意識を失った。それをトレンチコートの男は、酔っぱらいを抱きかかえるように店から連れ出した。そして、待たせてあった車に乗せると、走り去る。

 どれ程時間が経過しただろう。吉園は、ベッドの上で目が覚めた。
「あいたたた……」
 頭が、二日酔いの様に痛い。
(ここは何処だ?)
 吉園が寝ている部屋は見た事のない部屋だった。只、何らかの施設と言う訳では無く、民家の一室という雰囲気だった。
「おう。目覚めたか? 具合はどうだ?」
 部屋の扉を開け、男が入って来た。
「!? く……草薙先輩?」
 草薙は、ベッドの前にある椅子に腰を下ろすと、吉園に水を差しだす。
「驚いたか? まあ、驚くだろうな。昨日居酒屋で話を聞かせて貰って、急を有すると判断したもので、少し手荒なまねをしてしまった。すまない」
 草薙は頭を下げ謝る。
 吉園の頭の中は、混乱に占められ、全くこの状況が理解できていなかった。
「何が、どうしたんですか! 何故僕が拉致されて……てか、貴方は何者なんですか! 何が目的でこの様な事をするんですか!」
 吉園は、混乱と、恐怖で取り乱し大声を上げる。
「お前の夢だよ」
 草薙は静かに告げる。
「夢? そうか! 嫉妬ですね! 僕が、落ちこぼれだった僕が手柄を上げるから!」
 そう叫ぶ口を草薙は手で塞ぎ、静かに吉園の眼を見る。物凄い眼光である。思わず吉園は黙り込む。
「俺は、非政府組織のエージェントでね。君の上司として中途で入社したのも、任務だったんだよ」
 吉園は自分の理解できる領域を超越した話の為、あっけにとられ只黙って聞いていた。
「問題は君の夢にあるんだよ」

 草薙が言うにはこうだ。宇宙に知的生命体が居り、それらはこの星を侵略しようと狙っている。それに日々絶え間無く対処しているのが彼らの組織だというのだ。
 そして、最近発見されたある種族が、既にかなり侵略準備を進めており、人類が窮地に立たされていると言うのだ。
 その種族とは、約百五十年も昔から徐々に侵略の準備をしていたと言らしい。彼等は、三百年程前に、進み過ぎた文明を過信し、また自分たちを神の様に考え、命を操り、殺しあい、憎しみ合い、そして最終的に自分たちの星を死に至らしめてしまった。ほぼ全ての生物が死に絶えた。しかし、中にほんの少しの生き残りが居り、逃げ出した大きな宇宙船で宇宙を彷徨っていたと言うのだ。
 彼等は船内で自給自足を行い、生きていると考えられている。
 その生き残りの子孫が、星を出て、約百五十年程経過した頃に見つけたのが、我らの星だったらしい。
 彼等は、この星が自分たちの母星と、環境的にかなり類似している事を突き止め、移住しようと考えた。しかし、そこには先住民である我々が文明を築いていたのだ。
 彼らからすれば、大した文明では無かった様だが、攻め込もうにも、自分達は人数が少ない。その上、戦う武器も兵も無い。そこで、考えたのが、電磁波による攻撃だった。
作品名:「進化という、退化」 作家名:syo