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あとのまつり

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 そして、吉本は、着ていた衣装を脱ぎにかかった。ああ、返却せなあかんな、と、浪速も立ち上がろうとしたが、できなかった。痺れて麻痺している状態で、べしゃりと床に崩れる。
「ああ、おまえは、とりあえず、そのまんまでええから寝とけ。」
 ゆっくりと、豪華な黒の衣装を脱ぎ捨てると、吉本も白装束だ。衣装を、隅に除けて、それから、浪速の足に手を伸ばす。
「なんかそそるなあー足袋って。」
「どあほっっ。」
 ゆっくりと、痺れた足を擦って、足袋を脱がす。そろそろ告げてもいいだろうと、吉本は微笑んだ。
「あのな、おまえ、神様の供物なんよ。」
「はあ? 」
「さっき、おまえが三々九度あげて、神様と結婚したんや。それで、捧げられた供物っていうのを、村人がお下がりに貰うことになってるんや。それが、『あとのまつり』。」
「え? 」
 ゆっくりと袴の帯も解いていく。烏帽子も外し、そして、吉本は手を止めた。
「神饌をおろして村人が貰うんやけど、食べ物ではないから、誰かが、それを嫁に貰うんや。神様からの下がりものやから、それを大切に一生、守らないとあかんねんて。そうすることで、ここの神様と村の契約は完結するらしい。・・・・ええ結婚式やと思わへんか? 俺らが別れたら、この村は崩壊するんやで? おまえは神さんで、俺が村の代表や。だから、一生離れられないんや。」
 御堂筋から、その神事を聞いた吉本は、是非とも自分にさせてくれ、と言った。男同士というものは、契約がないし、社会的にも結びつくことができない。だが、これなら、お互いに結びつく理由になる。
「・・おまえ・・・それ・・・」
「そう、黙っとっいて、すまんな。俺は逃げられたら困るからな。」
 袴と烏帽子も、隅に投げた。そして、上から覆い被さる。しかし、浪速は慌てて、それを止めた。
「おま、おまえなあ、神さんの前で、何さらすんじゃあっっ。」
「ああ、ここで契らんていかんのや。」
「え? 」
「せやから、おまえが俺の嫁になったという証拠を、神さんに披露せんといかんのや。時間はたっぷりあるから、いろいろと楽しませてもらおうかなあ。あははははは・・・」
「・・もしかして・・・御堂筋さんが嫌がった理由て・・・」
「そう、これ。その女と一生添い遂げなあかんし、ここで何やってるか、村中に知れ渡るという大変羞恥プレーな目に遭うから。」
 あはははは・・と、吉本は気にした様子もなく、浪速の上に覆いかぶさる。「だって、俺ら、今日だけしか、村の人と顔合わさへんもん。」 という言い分らしい。
「待て、そしたら、俺とおまえのことは、バレてるんか? 」
「当たり前や。ここで、エッチする前提やねんから。」
「ああ、もう、信じられへんっっ。」
 あまり人目に触れていい関係だとは思っていない。それなのに、堂々と、とんでもないことを吉本はやってくれたのだ。
「あかんかったか? 俺の嫁でいてくれへんのか? 」
 じたばたしている浪速の様子に、吉本が視線を合わせる。
「俺の守備範囲は、おまえだけじゃっっ。・・・おまえ、本気であほやろ? 」
「しゃーないやん。結婚式なんかすんのは、面倒やし、これは、なかなかええと思ったんや。・・・なあ、あかんかったか? 」
 そう言われてしまったら、浪速も何も言い返せない。こういう形で、一生添い遂げる覚悟を披露してくれた吉本には、感謝したい気分である。あるのだが、何か腹立たしい。
「あかんことはない。でも、ちゃっちゃっとやって、ここから脱出する。」
「うーん、まあ、ええか。のんびり温泉っていうのも捨てがたいしな。」
 ここから、さらに二時間走ったところに、旅館を予約した。温泉で、海べりで、文句のつけようがない旅館である。そこで二泊するのが、これからの予定だった。
「ほな、ちゃっちゃっとやろ。脱がせてくれ。」
 吉本が納得したので、浪速は、さっさと、帯に手をかける。
「ムードって必要やで。萎える。」
「心配せんでも、萎えたら叩き起こしたる。」
「えーっと、お色気サービスってやつか? 」
「あーもーなんでもええわ。やったるから、さっさと脱がせろ。」
 一刻も早く村から脱出したいという雰囲気を浪速は醸し出しているが、実は照れている。いきなり、熱烈な告白をされてしまったら、さすがに照れて仕方がない。だから、わざと、ぶっきらぼうな態度になる。対して、吉本のほうは、それをわかっているから、とても嬉しそうな顔をして目を細めている。
「・・・おまえはあほや・・・」
「おおきに。」
 ふたりして、見詰め合ってキスをした。それが契約完結の合図である。
「『あとのまつり』って、そんな意味もあるんやな? 」
「いろんな意味で、『あとのまつり』やんな? おまえ。もう、引き返しできひんしな。」
 離れるつもりはなかった。だが、長い人生、何があるのかわからない。別れがあるかもしれない、と、浪速のほうは考えていた。それなのに、吉本は、それを否定した。なんだかわからないが、まあ嬉しい言葉だ。
・・・そやからって、こんなとこで、こんなことするとは思わへんかったなー・・・・
 不埒すぎる行いだと思うのだが、それが神事の最後だと言われれば、「やめろ」とも言えない。いや、言いたくはない。これからの繋がりを確認する作業だ。ゆっくりと、自分の上にある身体を抱きしめる。
「全部やる。」
「・・うん・・おおきに。俺も全部やるから。」
 終わって、外に出ることを考えて苦笑したものの、やめるつもりは毛頭無かった。
作品名:あとのまつり 作家名:篠義