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月下部レイ
月下部レイ
novelistID. 19550
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ROBOT

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「なんか、ちょっと疲れたな。ロボットのくせに情けないわ」
「また新しい感情を学習したからだろ」
「貴之と一緒におるとドンドン人間に近づいていくような気がするわ。でも、ほんまに楽しかったわ。ありがとうな」
「俺も楽しかった」
「じゃ、ちょお着替えてくるな」
「あぁ」


ロボットを好きになって、ロボットに恋をして。

そして紛れも無く、侑斗を愛している自分を何度目になるのか。確信させられて。侑斗もおそらく自分を愛してくれている。
たぶん照れくさくて暫くは二人とも改めて口にできないだろう言葉を、貴之は胸のうちに何度も繰り返した。
愛している。愛している。愛している。侑斗。
なんの生産性も無い愛だとわかっているのに。
愛することを止められない。

自分は侑斗のために何ができる。あいつをどんな事をしても守ってやりたいと貴之は改めて思っていた。



その時。
「ドサッ」っと。
侑斗が行った寝室の方から、何か物の倒れるような音が聞こえた。

「侑斗どうかしたのか?」
貴之の問い掛けに返事は無い。なぜだかわからないが、イヤな予感がした。
イスから立ち上がる貴之の足が、僅かに震えていた。慌てて寝室に向かう。
どうしたん、そう貴之に言って、にっこりと笑う侑斗の姿を願ってドアを開けたのに。

ドアを開けた貴之の目の中に飛び込んで来たのは。
ベッドの横に倒れている侑斗だった。

「侑斗、どうしたんだ!?」
すぐにその身を抱き起こした。

「貴之、ごめんな。ロボットのくせに倒れるやなんて。本当に人間みたいや」
そう言って笑おうとするのだが、苦しそうな顔は誤魔化せなかった。

「そんなことはどうでもいい。いったいどうしたんだ!?」
「貴之と俺って恋人なんやね」
「なに言ってやがる。さっきそう言っただろ。それよりどうしたんだよ」
「恋人にはちゃんと言わんといかんよな」
「当たり前だ!」
「俺の身体の中でカウントダウンが始まったんや」
「カウントダウン?」
「俺の身体の中には、ある装置がついとるんや。ロボットの暴走を止めるために一定の期間内にその装置にアクセスせんとカウントダウンが始まるんや。カウントダウンが始まったら、警告のために身体に不調が出るようになってるんや」
「だから、なんのカウントダウンなんだ?」

「・・・・・・カウントダウンが始まったら24時間で・・・・・・全ての機能が停止するんや」
「全ての機能停止?つまりお前が単なる人形に戻るということなのか!?」
「そうや」
「そうやって。いつから始まった!?」
「昨日の夜」
「じゃあ・・・、何で黙ってた!それはいい。研究所はどこにあるんだ。お前をすぐに連れていく」

「貴之、もう遅いわ、それに俺はあそこへは帰らへん」
「侑斗。お前自分の言ってることがわかっているのか」

「あそこへ戻ったら、一番大切なものを奪われてしまう」
「どういうことだ」
「俺の感情が芽生えた部分を全て入れ替えるやろ。一番大切なことを忘れてしまう。大好きな貴之のことを忘れてしまう」
「・・・・・・侑斗」



「この身体のままで、感情の無いロボットとして、貴之のことを忘れて生きていくんはいやや」



「お前・・・・・・」

侑斗の言った言葉が頭の中をぐるぐると回っていた。
あまりにも美しくて、残酷な言葉。
貴之の目からも侑斗の目からも、音の無い涙が頬を伝っていった。

「感情も何もないロボットして生きていくくらいなら、このまま貴之の腕の中で眠らせて」
なんという悲しい言葉なのだろう。でもそれが侑斗の意志なのだ。
自分の命に変えても侑斗が貴之を愛しているという証なのだ。
「追跡装置の回路も自分で切ったって言ったじゃねえか。何か方法があるんじゃねえのか」
貴之の目をじっと見つめて、力なく頭を横に振る。


「たとえ全ての機能が止まっても、貴之のことだけは忘れへん。貴之と一緒に暮らしてきた大切な日々のことは忘れへん。だから最後の我侭を聞いて欲しいんや」

「侑斗、本当にそれでいいのか?」
こくりと一度頷いた。
もうすぐ目の前で、何もできずに侑斗を失ってしまう。自分が地獄へ落ちるより、もっと辛いことがあるのだと。
自分の運命を呪う事しか貴之にはできなかった。
自分の無力さを嫌でも自覚させられた。



「貴之、……貴之といっつも見てた星、最後にもう一度見たいわ」
「……あぁ」
溢れ出る涙を貴之はもう我慢しなかった。


侑斗の身体を腕の中に抱えあげると、貴之は何も言わずにベランダに向かった。
愛しい者の身体を優しく抱きしめたまま。

優しい風がベランダを吹き抜けていった。

「きれいやなぁ」
「あぁ綺麗だ・・・・・・」

東京では珍しい星の綺麗な夜だった。

侑斗の身体を抱えたままゆっくりとひざま付く。


「俺を残して一人でいくのかよ」
貴之には珍しい気弱な言葉だった。どれだけ侑斗を愛しているのか、侑斗を必要としているのか痛いほど伝わってくる言葉。


「貴之、ごめんな。……俺、貴之と出会えて本当に幸せやった。ロボットがこんなに幸せでええんかなって」
「侑斗、お前はロボットなんかじゃねえ!」

「……貴之ありがとう、貴之の腕の中で眠れるなんて、夢みたいや。俺嬉しいんやで」
「侑斗……侑斗……」

「貴之、泣かんで」
侑斗は最後の力を振り絞って、貴之の頬を伝う涙を手で拭う。
「侑斗、俺を一人にすんじゃねぇ!!お願いだからずっと傍にいてくれ」
だんだんと力の抜けていくその身体を大切に抱きしめた。


「ありがとう、貴之・・・愛してくれて……俺も……愛し……て……」



「ゆうと!ゆうと!!ゆうとぉ!!!これからもずっとお前を愛してる」


貴之を見つめていた侑斗の瞳が優しく微笑むと、ゆっくりと閉じていく。
貴之の頬をなぞっていた侑斗の手から力が抜けて、パタリと胸の上に落ちていった。
ツゥーっと、一筋侑斗の頬を涙の雫が流れ落ちて。
糸をひいた。

全ての機能が。
とまる。


「どうしてだ、侑斗」
あふれ出る想い。
貴之の目からとめどない涙がこぼれ落ちて、抱いている侑斗のシャツに染みを作る。


もう二度と光の戻らない綺麗な瞳に。貴之の名を呼ぶ事のない唇に最後のキスを。
落とす。




まるで人間と同じ。
だんだんと冷めたくなっていく侑斗の身体を、貴之はいつまでも抱きしめていた。


「侑斗……お前を必ず……取り戻す……」
そう貴之は誓っていた。










「二ノ宮くん、専攻決めたの?毎日毎日研究に熱心みたいだし」

「あぁ」

「へえ、何?」











「ロボット工学」









Fin.







作品名:ROBOT 作家名:月下部レイ