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無条件降伏論

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僕が思つている僕といふ人間





俺は知っている。
自分という人間がいかに、途方もなくわがままだということを。
しかもそれは自分ひとりだけで解決できるものでもなく、周りを巻き込む類のわがままだったりする。
それならば、自分で分かっていたのならばどうすることもできただろう、と思うだろうが、残念ながらこれは俺の意思とは少し、離れたところにある事情だ。ライナスが毛布を手放せないように、今日も煙草に手を伸ばすように、卒業しようと思ってもやめられないことはある。
まあつまり俺はその辺のありふれた言葉を借りれば、ジャンキーということになる。中毒者。うわかっけー、なんつて。


「人間、薄情なもんだね」


少しずつ頭のもやがはっきりしてくる。何か考えるのもできるようになってきたし、今日も大丈夫オールオッケー。まだ一応自我は忘れちゃいませんよ。煙草もこうしておいしーし。


「昨日まで隣の部屋で鼠殺してた奴が今日は鼠みたいにぽっくり殺されちゃって、そんで俺らは人が死んだ隣の部屋でさっきまでズコバコヤッてたわけじゃん。いやー、人の精神って丈夫だよね」


毎日たくさんの何かが死んでいく。死、なんてものは誰かに殺されるか勝手に自分で死ぬかのどっちかに分類されるもんだと俺は思う。死んだら天の国ー、とか極楽浄土ー、とかいっそ輪廻の輪から出ちゃうー、とかそんな超宗教的なもんは信じちゃだめよってママが言ってた。いたかどうか怪しいママだけどそんなことどうでもいいよね。


「お前のは強いんじゃなくて穴だらけなんだよ」
「失礼な」
「そうだろうが。人が死んでも平気な顔して誘ってくるくせにそのへんの虫が死ぬと落ち込むだろお前」
「だって虫は俺にとって人間よりもはるかに高尚な生き物だからね」


あんなうつくしいものが他にあるか?いやないね。俺は自信を持ってそう断言できる。虫キモーイとか言ってる奴らは髪についた蜘蛛の糸が引っかかってそのまま動けなくなって衰弱死しろ!


「昆虫教だな」
「あーいいねいいね、俺信仰しちゃう。掛け軸とか壺とか買っちゃったりして」
「買わないだろ」
「買わないよ」


そんなしょうもないもん買ってこれからの人生が安泰になるなら一家に一壺どころか百壺くらいは下んないかもね。でもそれで国民全員が安泰になっちゃったら最大多数の最大幸福、幸せなことが当たり前、ドントウォーリービーハッピーな社会主義に国家は変貌。
それはそれでいいんだけど・・・ってよかないなぁ。


「じゃあ俺はそろそろ帰るかな」
「愛すべき奥さんのもとへ」
「そう、俺の愛すべき嫁のもとに」


俺たちのルール。
ここでは奴は俺に優しく、この部屋から一歩でも外に出たら嫁さんに優しく。そうして今まで不健全に暮らしてきた。ご要望通りのマニアックなプレイもしたんだろーけど、生憎俺はこのちっちゃい白い錠剤のせいでほとんどなぁんにも覚えちゃいない。
だってほら、キモチイイ事するときはさ、余計なこと考えてたらつまんなくなっちゃうでしょ?何にも考えられなくなるために一回一錠、それでオッケー。次の日の腰痛まではごまかせないけど。

まあなんだ、心配すんな。幸せだから。




作品名:無条件降伏論 作家名:蜜井