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無条件降伏論

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てつがくのきみ





誰かから何かをもらう度に、慣れない、と思う。
当たり前に嬉しいのだが、それがうまく表現できないというか。
もしあと少しだけわがままを言って育ってきていたとしたら、今よりも人を喜ばせることができたんだろうか。
でもそんなことを言おうともう遅い。
どこを切っても素直になれないなんて、可愛げがないにも程がある。


「・・・・・はぁ」


眼鏡を外す。
定位置にあったはずの眼鏡拭きが見当たらなくて、急にやる気がなくなった。
もう寝てしまおうか、と思って後ろを振り向くと、暗い部屋の中で目が合ったような気がした。


「なに悩んでんの」
「何も」
「悩んでるよ」
「悩んでは、ない」
「じゃあなに」
「迷ってる」
「同じだよ、それ」


眠いんなら寝たらいいのに、と自分の横をたたく。人の布団を占領しておいていいご身分だ、とは今日は言わない。
多分、疲れてるんだと思う。何がとは言えないけど、言うならば自分に。


「果たして正しいのか、ってことだ」
「わかんないよ」
「解られたら俺が困る」


昔、人は海の子で、地球は四角だったらしい。
今、人は神の子で、地球は球体であるらしい。
次は一体誰の子になって、地球はどんな形になるんだろうか。ピラミッドみたいな形になって、ヒエラルキー別に棲み分けがあったりしたら面白い。上流階級がピラミッドの下に長い腕を伸ばして、最下層から捕食する。そしてその骨が棄てられてまた最下層へと辿り着き、上流階級を押し上げていく。解脱なんてことは、絶対無理。
・・・・そんな仕組みならいまいち今と変わらないか。


「行はもっと気楽に生きるべきだと俺は思うなぁ」
「俺だってそう思ってる」
「たとえば俺みたいにさ」
「・・・そこまではちょっと嫌だ」
「あー、まあ俺も嫌だな、ごめん」


人の生き死には、宝くじみたいなものだと前に誰かが言っていた。
たくさんのくじを毎日1枚ずつ引いていって、いつハズレ(あるいは当たり)が出るのかみたいなものだって。この辺りは混ざってなさそうだからどうだろうとか、下の方がよさそうだとか。
昨日まで元気だった人が突然死んだりするのは、そういう理屈なんじゃないか、って。例えば、うちの両親みたいに。


「なあ」
「ん?」
「俺たちは近親相姦になるんだろうか」
「・・・ん?なんで?多分血つながってないよ?」
「広い目で見るとそうなる気がする」
「広すぎるよそれ・・・そしたら全人類が近親相姦になっちゃうよ」


発想が高度すぎると尖らせる唇にキスをした。
非生産的としか言いようのない行為。人間にしかできない、意味もなく贅沢なこと。
あさましくても、たまらないこと。


「・・・・行?」
「いいから、早く」


命の可能性を無駄にして生きている俺はきっと、三角形の地球では最下層なんだろう。






作品名:無条件降伏論 作家名:蜜井