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Merciless night(4) 第一章(完)境界の魔女

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 ベッドの上で少し上半身を起こした状態で、ファミーユに対し失礼と思いつつ礼をする。

「別にお礼なんていいのに……。同じ魔術師を助けるのは当然の行為よ」

 少し照れるように微笑む。
 同じ魔術師……か。
 魔術師と疵術師についていろいろ険悪だの、侮蔑だの、差別とか聞いたりしたが、魔術団の最高位がちゃんと認めているじゃないか。
 ファミーユだけでなく他の『賽の目』もまとも……と言う訳ではないだろうが。

「今の時間は?」

 少し、魔術団に対する誤認があったようだ。
 それでも、ここが全てではないことは分っている。
 他も同じということはないだろう。
 大きな組織になればなるほど内部は複雑化していき上の手が届き難くなる。
 大きな組織を動かすには、大きな力が必要だ。

「今は、三時五十分ね」

「ギリギリだな。で、初めから訊いておくべきだったことなんだが、……ここはどこだ?」

「ここは極東第二魔術団統制直轄施設、IN飛羽市」

 …………つまり、ここは魔術団の施設内と言うことか。

「ここからどうやって学園から一キロ離れた山に行くつもりなんだよ」

「そりゃ、車でしょ」

 えらく現代的だな。
 魔術が使えるのだから飛んでいくとかいうロマンはないのかよ。
 因みに、オレは空を飛べるなんて便利な魔術は知らない。

「車の運転は?」

「私だけど。何か問題ある?」

 直感だが、絶対に事故る気がしてきた。

「いいえ」

「じゃあ、早くベッドから起き上がりなさい。もう立てるでしょ?」

オレは一抹の不安を抱きつつ、ゆっくりとベッドから地面に脚を下し自力で立つ。
なにか脅されながら立たされているようでもないが……、

「ほら、早く動かないと針で点滴打つわよ」

「それだけは勘弁~」

 今にもチクリと刺しそうな針はオレを追っかけまわす。
 詳しく言えばファミーユが針を持って追いかけてくるのだが、は……針だけは、やめてもらいたい。


 結局、オレはそのままファミーユの赤いポルシェまで針で追いたてられ、強制的に助手席に座らされ 車で拉致された。
 ファミーユの運転はそれほど怖いものではなく、何事もなく例の待ち合わせ場所に着くことが出来た。
 到着までの時間は5分程度。
 これぐらいの距離なら坂宮も無事についていることだろう。

「さぁ、行きましょう?」

「あ……ああ。」

 今の時間は3時58分。
 このまま待ち合わせの桜の木のところへ……。
 待った。一つ大きな問題があった。

「ファミーユ、お前の紹介はどうすればいい?」

 迂闊にも、こちらファミーユ・リ・ルーシェさん、魔術師です。
 なんてこと、言えるはずがない。

「普通の友達でいいんじゃない?外国から留学で日本に来ていて、偶然ショッピングモールで成人が衝動買いしているところに目がいってしまい、それ以来衝動買い仲間です、と」

「ああ、それでいくか」

 絶対に可笑しいが気にしない。
 どうしてショッピングモールが出てくるんだよ。
 もう、どうにかなってしまえ。

「さて……もうすぐか」

 歩く先に見覚えがある五人の友達が、大きな桜の木の下で待っている。
 元気に手を振る雪上に、その横で控えめに手を振る零。
 池上は何故かオレに不満そうな顔で見つめてくる。
 そして、このイベントの主役である公林は一番目立たずオレに挨拶する。
 ちょっと……気を使わせちゃったかなぁ……。
 思ったより人数が増えて騒がしくなりそうなことに後の心配をする。
 公林はこういうの苦手だったかなぁ……。
 いろいろと不安が出てくるが考えても仕方ないか。
 さぁ、花見と……、

「ナッリー!!」

「ウアッ、ヌォ」

 突然の坂宮のおんぶ攻撃は、背中に伝わる胸の刺激がオレを痺れさす。

「私のこと、無視したでしょ」

「いやぁ、してないよ全然」

 ただ説明がメンドくて……なんてことは言う訳にはいかない。

「とにかく、次無視したらレモンの飴玉百個ね」

「百個!?オレの学生ズボンのポケットが決壊する。……まぁ、持ってきてやるよ」

「わ~い」

 オレの背中から離れると共に両手を上げて、キャッキャハシャギみんなが待つ桜の木まで駆けていく坂宮。
 なにか、その光景がオレの心を満たす。
 別に坂宮の胸が揺れるとか、そういったやましい理由じゃない。
 いつも校内でやっていた喜びの舞が校外になっただけなのだが、その光景を守れたことに誇りを持つ。
 この光景を実際に守ってくれたのはファミーユと坂宮で、オレはあまり助力も出来なかったが、今は満足している。
 だから、後悔しないため全力で奴らに当たっていくしかない。
 この場面を護るために。

「じゃあ、いくかファミーユ」

「随分と嬉しそうね?」

「ああ。坂宮とファミーユのおかげだ」

「そう。ありがとう」

 当然のようにファミーユはそう言い、一緒にみんなのところまで辿り着く。
 やっとの休息。
 だが、それもすぐ崩れてゆくことも知っている。
 オレはやがてくるその時までに、この手で誰かを護るための力を手に入れる。
 そして、待っていろ……ヴィレイル。