小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

Merciless night(4) 第一章(完)境界の魔女

INDEX|6ページ/7ページ|

次のページ前のページ
 


「……そう。で、なんで私に黙って花見に行こうとしていたのかしら?」

「黙っていたも何も、魔術界最高位の『賽の目』だろ。なぜその高貴なるお方が庶民の祝い事に参加されるのですか?」

 ファミーユは『賽の目』の一人だ。これが意味することは誰でもわかる。
 テンプル魔術団の最高位のであり、魔術師としても最高峰のところにいる人が、桜の木の下で魔術も使えない一般の人たちと酒を飲みかわしていると魔術団の人が知ればどう思うだろうか?
 まぁ、ファミーユが自由奔放というか堅苦しくない人物でオレは嬉しい。
 いづれ敵対するかもしれないが、ファミーユに負けるのならば悔いはない。
 奴とは話が別だが。

「私が花見に行っちゃいけないっていうの?」

 別段、ファミーユを誘わないつもりでもなかった。
 といっても、誘わずとも来るのは目に見えている。
 どうせ、追跡用の魔術を使ってオレを追ってくるに違いない。

「ファミーユを誘わないはずがないだろ。今日の午後4時頃に集まるって約束なんだが……」

「今は……午後2時ね。花見の場所には私が連れていくから、少し話をしましょ」

 そうか。大分眠っていたらしいな。
 大分傷をオレも負っていたから……、いや。俺より坂宮、そしてファミーユは腹部から大量に出血していたはず、

「わかった、話をしよう。それより最初に、ファミーユ……腹部の傷は大丈夫なのか?」

「ええ。腹部をリティに焼き貫かれただけだから」

 何事もなかったようにファミーユは笑いながら話す。
 ああ、そうか。
 ただ腹を……ね……。

「大丈夫じゃないじゃないか」

 何で笑いながら話すんだよ。おかげで騙されてしまった。

「大丈夫、大丈夫。リティがタイミングよく結界を壊してくれたおかげで、死ぬギリギリのところで魔術で応急処置を施すことができたわ」

「結界が壊れたおかげ、てあの結界はファミーユ一人で張ったのか?」

「ええ。だから黒騎士戦と昨日の戦闘時では保有魔力量は今の2分の1。簡単に言えば能力半減状態ってこと」

「そうか。それで結界が潰れたことで怪我を直すことができたのか」

「人が張った結界を潰したって……。とりあえず、そういうこと。けれど、成人に心配してもらえるなんて嬉しいわ」

「何でだ?」

「だって、人形ほどと言っていいほどの感情の持ち主が、この4カ月の間にここまで成長しているなんて」

「オレを何だと思ってるんだよ。一応人間だ。感情等については奴と坂宮のおかげだ」

「随分と坂宮さん出番が多いいのね。ヒロイン役取られたかも」

「なんだ?その脚本は?」

「いえ、独り言よ。それより坂宮さんだけど、成人はどういう魔術を使ったの?魔術行使に必要な神経だけを切断するなんて、聞いたことがないわ」

「あれは咄嗟に編み出した魔術だから、どういうふうに発動したかは覚えていない。だが、それを可能にしたのは坂宮のおかげかもしれない」

「坂宮さんの?」

「そう。坂宮の能力については本人から何か訊き出したんじゃないのか?」

「ええ、まぁ能力以外については。といっても、殆ど彼女から教えてくれたのだけどね。私から訊いたことは、ADEOIAに所属していたかどうかだけ。彼女が所属しているのならば今件の責任は当然、ADEOIAにあるのだから。ADEOIAは疵術師を誰かに利用されないようにするのが役目であり、その中には疵術師を守るという義務もある。結果、彼女は所属していた。でも、ADEOIA元帥からの報告では、彼女は二年前から行方不明、若しくは死亡という扱いになっていたわ」

 ADEOIA、それは世界の全疵術師を統括しているテンプル魔術団機関。正式名称は疵術師公式国際魔術協会(Affected deference Encompass ― Official International Association)。前述にあるように疵術師を統括・管理しDMFBの索敵、討伐、研究を行っている。
 当然、坂宮も疵術師なのだからADEOIAに所属しているはずだ。だが、行方不明や死亡扱いってどういうことだ?
 死亡扱いされる理由としては、坂宮自身の魔力の消失。もしADEOIA元帥が疵術師一人一人の魔力の存在を把握し、生存を確認をしているのならばそれしかない。
 この世界に魔力を持たないモノはないのだから。

「何でそんな扱いに……。現に今も生きている」

「……そう。だから、魔術団における最高位の権限で出来る限り調べたわ。組織による隠蔽や虚偽の報告書、事実の信憑性についても。でも」

「元帥の報告は本当だった……、と」

 ファミーユは顔を曇らせながら静かに頷く。
 ……そうか。聞いた話では魔術団に問題はなさそうだ。
 詳しい事実を知るには本人に訊くしかないか。

「つまり、ファミーユはオレから坂宮に事情を訊いてくれ、ということか」

「頼まれてくれるかしら?」

「わかった。条件付きで頼まれよう」

「何かしら、条件って?成人拘束の件ならもう帳消しになっているけれど……」

 何々?とファミーユはオレの顔を覗き込む。
 その顔は何かオレが要求する条件を楽しげに待っているように見えた。
 そんなに見られても、期待するような条件はオレの口から出ないぞ。

「医療系統の魔術を学びたいから、そのための学術書が欲しい」

 辺りに濁った空気が流れる気配を感じる。
ファミーユは興味深々だった顔から一変し、詰まらな顔になる。

「ハァ……。どこの真面目君なのよ」

「坂宮の喉応術性神経を繋ぎ直すための知識が欲しい」

 と、瞬間ファミーユはより詰らないという顔になる。
 見るからにやる気がない、ダレている、疲れているという言葉が似合う顔をしている。

「本当にヒロイン交代(後退)なのかしら。……坂宮さんの喉応術性神経ならとっくに私が繋げたわ」

「何……だと」

「昨日夜、私と公園で待ち合わせた後、学園に行く時のこと覚えてる?」

「ま……まぁ……。それがどうしたんだ?」

「学園に行く途中、成人のポケットを私があさっていたでしょ。その時にポケットからリボンを見つけたの」

ああ。保健室で何か拾った覚えが……。

「確か……、坂宮の魔力を少し感じて」

「あれは少しなんてレベルじゃない。すごく強力で坂宮さん自身の魔力で出来ていたわ。だから、昨晩成人に会った時に、異様な魔力を感じ取ってポケットをあさったの。何に使っていたかは分らないけれど、屋上にいた彼女は瀕死に近い状態だったから、そのリボンを使ったの。リボンを魔力へと還元させ、その魔力を私が行使して彼女の喉応術性神経に変形させて結び付けたの」

 …………うむ。さっぱりわからない。

「そもそも、人の魔力を他人が行使できるのか?」

「いいえ。でも私の魔術なら可能よ」

 そうだった。
 目の前にいるのは不思議マジカル老婆だった。

「誰が老婆なのよ」

「なに!?……聞こえている、だと」

「まぁ、こんな感じの能力を使ったのよ」

 益々わからない。
 だが、坂宮の喉応術性神経が繋がっているのならば心配はいらないか。

「ありがとう、ファミーユ」