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Merciless night(4) 第一章(完)境界の魔女

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「指揮官とは部下を己の一身体のように使えなければ、縦横無尽な戦法も、戦略も、作戦も意味を成さず思慮に終わる。それは余りに無能。部下を自身の思い通りに指揮できてこそ真価を発揮する。それを出来ずして、指揮官など名乗れんよ」

 奴の言葉は理に適っている。

「……だが、お前の言うその身体の一部であるオレは組織を裏切った。それは……指揮官が無能だからじゃないのか?」

「そう思われても仕方ない、今は――。人が他人になれないように、考えもまた相手の全てを把握することは出来ない。……と、長話はここらへんで止めにしよう」

 そう言うと奴はコートの中から細く長い剣を両手に一本ずつ取り出す。
 
「君の力は、いや……君には教えておくべきことがある」

 そして、奴の両手に持つ剣は突然、手の中を離れ空に設置される。
 文字の通り奴の左右の頭上に設置された剣はオレに刃先を向け殺す気を潜める。
 オレは身の危険を悟り魔術により武器を精製する。

「今の君では、私に手を出せないことを」

 宙に浮いた二つの剣は勢いよくオレへ突っ込んでくる。
 剣は何の迷いもなくオレに向かって直線で飛来する。
 オレはバッドで投げられたボールを打つのと同じように、飛び来る剣を魔術で精製した剣で何事もなく打ち落とす。
 視点は元に戻り奴を……。
 いない。
 剣が飛び、それをオレが撃ち落とすまで二秒弱。
 立ったわずかの間に奴は……、

「見事な反応だ。だが……」

 後方に聞こえる風を切る音と共に、鈍く肉を突き抉られるような腹部の感触。
 首を曲げ、腹部を見れば、鋭く綺麗な刃がオレの肋骨下を貫いていた。
 背中から刺される感触より先に体を疼かせる貫かれた感触。
 腹部は血でシャツがじわじわと滲み、少しずつ赤く染まっていく。
 体が重く、鈍く動かすことが辛い。

「今は苦しむ他、君には道がない。まだまだ未熟であり魔術も極めてはいない」

 奴は力の差を示すように、知らしめるように、ズボンのポッケに片手をいれ立つ姿はいかにも偉そうで気に食わない。だが、認めたくないがオレでは敵わない。
 いや、当たり前なのかもしれない。
 奴はオレが戦場に出る前から死地を駆け抜け生きてきた。
 経験や実力においても、今のオレでは……。

「そうだな……今の君の持ち得る全てを究極にまで鍛えたとしても、私には届かない。君が私に勝つときは……自身に気づいた時だな」

 奴はそう言うと、一人何かを楽しむように口元に微笑を浮かべる。

「聖クロノス様、それ以上は……」

 オレの正面のリティが奴に喋りかける。
 助けるような声ではないが、その一言にオレは安心する。
 あと、初耳なんだが……奴を創世十二柱のクロノスとリティは読んだ。
 あいつの位はアルファベットの『F』じゃなかったのか?

「随分な……こと、言ってくれるじゃない、か……リティ。で……何時から創世十二、柱……なんかに?」
 
 終に脚に力が入らなくなり膝は折れ、体を支えようと四つん這いになる。
 腹に刺さる剣はギリ地面に当たるか、当たらないかぐらいで留まる。
後ろに敵がいるって言うのに、情けないな。
 奴からフフッと言う声が漏れる。
 なんて余裕な奴だ。だが事実、オレはこのとおり体たらくだ。
 逆らうことも、罵倒してやることも……限界のようだ。
 どうやら……ヘタレ撤回は無理らしい。

「君がこの作戦のため飛羽市に来た時の一カ月前だ。まぁ、そこそこにこの地位も悪くはない」

 言動とは裏腹に、未だその地位が不服と聴こえる奴が動く気配を感じる。

「いい加減、姿を出してもらおうか……」

 奴はオレの後ろで、小声にそんなことを言った。
 恐らくオレを切りつけるであろう動作を感じながら、オレは体を支える両手を離す。といっても、右腕は潰れているから、実質体を支えていたのは左腕なのだが……。

「いだっ」

 首を上げるのを忘れ思い切り地面に鼻をぶつける。それと刃はオレの腹の肉を擦れながら、柄は背中から飛び出る。
 奴の手に握られているのは、風を切る音から剣であろうと予測できる。
 剣はオレの背中すれすれを通り過ぎ、抜けかけの背中に刺さる剣を薙ぎ飛ばす。

「うぇ……っほ……」

 流石に背中の表面の肉を抉りながら剣が抜けるのは、オレ……死にそう。
それでもそれを期にオレは仰向けへと寝返りをうち反撃を……って、

「な!?」

 脳天直撃級の軌道で迫る剣を、首を捻り2、3個かわす。
 そして、立ち上がろ……、

「そこまで……だ」

「そこまで、ね」

 オレに向けられた奴の剣は吹っ飛ぶ。
 奴の語尾に重なる様に聞こえた耳慣れた声。
 そう。オレの目の前にあの魔女が立っていた。

「やっとのお出ましか。私は大分待っていたつもりなのだが……」

「そう。なら……ありがとう、と言うべきかしら?」

 いつもの小悪魔のような口元の緩み、そして鋭い視線。
 その表面だけでは戦える力はあると言いたいようだが、逆に痛々そうに血が流れる腹を抱えるその手は、その体はもう限界に悲鳴を上げていることだろう。
 魔女がこんなになっているというのに、戦うことすら出来ず、守られっぱなしはやっぱりヘタレの象徴なのかもしれない。

「いや、礼はこちらがするべきだ。では、いずれまた対極する時が来るだろう。勝手ながら、ここらへんでお開きとさせてもらう」

 またも……。
 オレとファミーユは一瞬たりとも奴から目を離さなかった。
 それにも関らず奴は退くモーションもなく、間を一つも開けず消える。
 オレたちは大体の目星を付け同じところを向くと、リティの右肩に手を置き奴は隣にいた。

「ど、どうやって……」

 ファミーユから零れる絶対に不可能の意味を含んだ声は、誰に聞こえることなく地面に落ちる。
 オレは奴の使ったであろう魔術の解析、及び逆演算を行おうとするが諦める。
 そこまでオレの意識は続かなかった。
 オレは奴とリティが屋上から消えるのを黙視した後、瞼を閉じ限界が来ているこの体を休めることにした。




 音がなく、何かの“流れ”だけを感じる空間。
 ……ああ。
 
 ここは知っている。
幼いころから誰にも浸食されず、血のように絶えずオレの身体にそれは流れ続ける。

 ――――今も。

 流れる“それ”が何なのかは分らない。
 ただ感じるだけ。
 流れていると。


 カツン、カツン。
 足音。
 誰かが近づいてくる。
 確か、オレは屋上で意識をなくして……。
 まさか奴が……。
 オレは急いで重い瞼を開け臨戦状態に……、

「…………ん?右腕が……元に戻っている」

 オレは屋上で坂宮に右腕の骨を潰されたはず……。
 右腕はハルバードに刺された傷跡は残っているものの、普段の行動に少し支障をきたすぐらいの痛みにまで治まり、なにも違和はない。
 よく周りを見れば医務室のような場所。
 辺りは白く、棚のガラスケース内には医薬品らしいものが並び、最新の魔導回路を用いた医療機器もある。
 そして、オレの腕から細い透明な管が繋がっていて…………、
 
「なっ……」

 左腕に点滴のための針がっ。
 こ、こんなことがあってたまるか。