永遠 そのに
二週間ぶりに、我が家に帰ったら、誰もいなかった。いや、なんていうか、誰も住んでいない部屋になっていたが正解だ。生活感が一切ない。あのボケのベッドのシーツが、綺麗なままだ。ゴミ箱も、おそらくは二週間前の吸殻と思しきものしか入っていない。
・・・・どういうことや?・・・・
もしかして、あっちも出張か? と、思ったものの、そんなものはないだろう。連絡すれば、ヤブヘビになるから、おいそれと職場に確認するわけにもいかない。もしかして、俺が帰るまで、向こうの職場の寮へでも避難したかと、良いほうに考えて、とりあえず洗濯物を洗うことにした。それから、食べるものもないので、仕方ないから、コンビニで行って、適当なものを買ってくることにした。
もし、この週末に帰ってきぃひんかったら、職場へ押しかけるか、と、コンビニで、そんなことを考えつつ、メシだけ買った。あのボケは、仕事だけは休まないようにしているから、そこには確実に居るはずだからだ。
・・・やっぱり、携帯持たせたほうがええかな・・・・
いや、今回の場合は、携帯があっても圏外であったから意味はないのだが、それでも、これから連絡を、すぐにつけられるという利点はある。どこにいるのかわからないのでは、話にならない。
・・・あんまり出張とかないとは思うけど・・・・
度々、こんなことになるのなら、出張がない部署に転属するほうがいい。たぶん、あのボケは食べていないだろうし、また、生きているだけ状態になっているだろう。具合が悪くなっていないことを願っているが、二週間は長すぎる。
ふう、と、溜息をついて、ハイツの階段を登ったら、俺の家の前に誰かが立っていた。
「水都っっ? 」
慌てて、近寄ったら、まったく見ず知らずの女だった。しかし、その女、あろうことか、俺に向かって、「どあほっっ、遅いんじゃっっ。」 と、叫びやがった。
「はあ? あんた、誰? ていうか、俺、喧嘩売られてるんか? 」
「浪速水都の旦那? 」
「え? 」
「さっさと質問に答えろ。このあほ。」
ものすごい剣幕なので、「せや。」 と、俺が頷くと、「水都と喧嘩した? 」 と、さらに尋ねられる。
「え? 二週間逢うてないから、喧嘩なんかできへんぞ。て、あんた、水都のこと知ってるんか? 」
「知ってるも何もっっ。ちょっと聞きたいねんけどな、水都は、どっかおかしいとこある? いきなり記憶喪失とかなるような体質なん? 」
「はあ? 記憶喪失? え? あいつ、入院とかしてるんか? どっか怪我でも? 」
そうかそうか、ぼぉーっとしとって交通事故にでも遭うたか、と、俺は慌てたものの、安堵した。そういうことなら、いないのは当たり前だし、俺に連絡が来ないのも仕方がない。だから、俺は籍を入れようと言ったのだ。こういう時に、困るから。
家の鍵を開けて、慌てて保険証と着替えの準備をしようと思ったら、女が、ちゃうちゃうと、俺の腕を掴んだ。
「うちに二週間居ついてるんよ。そやけど、おかしいんよ。水都、あんたのこと知らんって言うんよ。それに、いきなり、あたしと結婚するとか言うしっっ。あれ、どっか絶対におかしいっっ。あれは病気なん? 」
女の切羽詰ったような言葉に、俺は一端、凍った。
・・・・結婚?・・・・
以前、水都が考えていたことだ。生きている間、家族というものがあるべきだから、さっさと結婚して子供でも作って生活するのが普通だ、と、考えていた。それは、非常に正しい意見なのだが、それには根本的な欠陥があった。水都は愛している相手と結婚するというのではなくて、言い寄ってきた相手と結婚すると言ったからだ。結婚の意味がわかっていないと、俺は叱ったが、水都には、それがわからなかった。かなり壊れていると判明したのは、そんなことがわかってからだ。
・・・・また、戻りやがったな、あの野郎・・・・
元の状態に戻っているらしい。たぶん、この女と、どうにかなったから、それで結婚してしまえばいいとでも思っているのだろう。そんなものは幸せではない、と、俺は何度も言ったのに・・・・そして、結局、俺は、その水都だからこそ、一緒にいることを選んだのに、それすらも記憶から抹消するつもりでもあるのだろう。
「ちょっと、こんなとこで、フリーズしてる場合やないのっっ。答えてっっ。」
ぼおっと立ち尽くした俺の胸に、思い切り裏拳を入れて、女が叫ぶ。そら、混乱するだろう。遊びのつもりだったろうに、いきなり結婚とか言われたら、誰だってビビる。
「あれ、壊れてるねん。あんた、遊びで付き合ったんやろ? 」
「そう。二週間限定でって、最初に約束したんよ。ネコの人なんて珍しいし、それなりに顔も好みやったから。・・・壊れてるって何? 」
「えーっと、うちのネコの人な、普通の家庭を築いて生きているのが幸せなことやと思てるんや。相手のことが好きやから一緒におりたいとか、そういうんではなくて、形式美に憧れてるっちゅーか、なんていうか。・・て、あんた、なんぼほどストレートなんや? ネコの人って、おいっっ。」
「あんたのこと言うてもわからへんねんで? あんたら、カップルなんやろ? 」
「だから、俺が二週間も留守したから、俺がおらんことに耐えられへんかったから、さらに壊れたというとこちゃうかな。」
俺のことを忘れれば、俺の代わりが必要になる。ひとりが好きだった水都に、一人は寂しいと、俺は教えてしまった。だから、一人が楽だという感情が水都からはなくなった。その代わり、誰かが傍に居ることが必要になった。
「・・・やっぱり、二週間ってあかんねんな。」
「二週間で忘れられるわけがないやろっっ。」
「いや、あいつならできると思うで。ほんで、あんたは、結婚するつもりはないんか? 一応、老婆心から言うが、あいつは、好きとか愛してるなんてことは思てないからな。」
「できるかぁぁぁぁぁぁっっ。」
「まあ、せやろうな。でも、あいつ、俺を忘れてるんやったら、このまま、じわじわと侵食してくと、あんたのことが好きになると思うで。そういう生き物やから。」
「どあほっっ。あれは、ネコの人っっ。ネコがタチやって満足するわけないやろがぁぁぁっっ。ネコは入れられて、なんぼじゃっっ。」
「うわーストレート剛速球に下品やな。」
あけっぴろげた意見に俺は大笑いだ。どう見ても、俺より、ちょっと上くらいの女なのに、どこかおっさん臭さがあるような勢いだ。こんな女だから、水都も自分のことを話したんだろう。これだけはっきりと言われたら、こっちもはっきりと言いたくなる。
「方法はいろいろあるで? 」
「そんなことはええっちゅーのよっっ。それより、あんたに質問。」
「おう。」
「水都はいらん子? 」
「いいや。ものすごくいる子。」
「あんたら、別れ話とかは? 」
「そんなんあるわけない。あいつ、俺と暮らしてること自体が同居というレベルにしか考えてないで? 」
「でも、やることはやってんねんやろ? 」
「そら、まあ。」
「水都が好き? 」
「うーん、好きとかいうレベルではないねん。傍におって欲しいんよ、俺としてはな。水都の世話してないと、どうも調子が狂う。」
・・・・どういうことや?・・・・
もしかして、あっちも出張か? と、思ったものの、そんなものはないだろう。連絡すれば、ヤブヘビになるから、おいそれと職場に確認するわけにもいかない。もしかして、俺が帰るまで、向こうの職場の寮へでも避難したかと、良いほうに考えて、とりあえず洗濯物を洗うことにした。それから、食べるものもないので、仕方ないから、コンビニで行って、適当なものを買ってくることにした。
もし、この週末に帰ってきぃひんかったら、職場へ押しかけるか、と、コンビニで、そんなことを考えつつ、メシだけ買った。あのボケは、仕事だけは休まないようにしているから、そこには確実に居るはずだからだ。
・・・やっぱり、携帯持たせたほうがええかな・・・・
いや、今回の場合は、携帯があっても圏外であったから意味はないのだが、それでも、これから連絡を、すぐにつけられるという利点はある。どこにいるのかわからないのでは、話にならない。
・・・あんまり出張とかないとは思うけど・・・・
度々、こんなことになるのなら、出張がない部署に転属するほうがいい。たぶん、あのボケは食べていないだろうし、また、生きているだけ状態になっているだろう。具合が悪くなっていないことを願っているが、二週間は長すぎる。
ふう、と、溜息をついて、ハイツの階段を登ったら、俺の家の前に誰かが立っていた。
「水都っっ? 」
慌てて、近寄ったら、まったく見ず知らずの女だった。しかし、その女、あろうことか、俺に向かって、「どあほっっ、遅いんじゃっっ。」 と、叫びやがった。
「はあ? あんた、誰? ていうか、俺、喧嘩売られてるんか? 」
「浪速水都の旦那? 」
「え? 」
「さっさと質問に答えろ。このあほ。」
ものすごい剣幕なので、「せや。」 と、俺が頷くと、「水都と喧嘩した? 」 と、さらに尋ねられる。
「え? 二週間逢うてないから、喧嘩なんかできへんぞ。て、あんた、水都のこと知ってるんか? 」
「知ってるも何もっっ。ちょっと聞きたいねんけどな、水都は、どっかおかしいとこある? いきなり記憶喪失とかなるような体質なん? 」
「はあ? 記憶喪失? え? あいつ、入院とかしてるんか? どっか怪我でも? 」
そうかそうか、ぼぉーっとしとって交通事故にでも遭うたか、と、俺は慌てたものの、安堵した。そういうことなら、いないのは当たり前だし、俺に連絡が来ないのも仕方がない。だから、俺は籍を入れようと言ったのだ。こういう時に、困るから。
家の鍵を開けて、慌てて保険証と着替えの準備をしようと思ったら、女が、ちゃうちゃうと、俺の腕を掴んだ。
「うちに二週間居ついてるんよ。そやけど、おかしいんよ。水都、あんたのこと知らんって言うんよ。それに、いきなり、あたしと結婚するとか言うしっっ。あれ、どっか絶対におかしいっっ。あれは病気なん? 」
女の切羽詰ったような言葉に、俺は一端、凍った。
・・・・結婚?・・・・
以前、水都が考えていたことだ。生きている間、家族というものがあるべきだから、さっさと結婚して子供でも作って生活するのが普通だ、と、考えていた。それは、非常に正しい意見なのだが、それには根本的な欠陥があった。水都は愛している相手と結婚するというのではなくて、言い寄ってきた相手と結婚すると言ったからだ。結婚の意味がわかっていないと、俺は叱ったが、水都には、それがわからなかった。かなり壊れていると判明したのは、そんなことがわかってからだ。
・・・・また、戻りやがったな、あの野郎・・・・
元の状態に戻っているらしい。たぶん、この女と、どうにかなったから、それで結婚してしまえばいいとでも思っているのだろう。そんなものは幸せではない、と、俺は何度も言ったのに・・・・そして、結局、俺は、その水都だからこそ、一緒にいることを選んだのに、それすらも記憶から抹消するつもりでもあるのだろう。
「ちょっと、こんなとこで、フリーズしてる場合やないのっっ。答えてっっ。」
ぼおっと立ち尽くした俺の胸に、思い切り裏拳を入れて、女が叫ぶ。そら、混乱するだろう。遊びのつもりだったろうに、いきなり結婚とか言われたら、誰だってビビる。
「あれ、壊れてるねん。あんた、遊びで付き合ったんやろ? 」
「そう。二週間限定でって、最初に約束したんよ。ネコの人なんて珍しいし、それなりに顔も好みやったから。・・・壊れてるって何? 」
「えーっと、うちのネコの人な、普通の家庭を築いて生きているのが幸せなことやと思てるんや。相手のことが好きやから一緒におりたいとか、そういうんではなくて、形式美に憧れてるっちゅーか、なんていうか。・・て、あんた、なんぼほどストレートなんや? ネコの人って、おいっっ。」
「あんたのこと言うてもわからへんねんで? あんたら、カップルなんやろ? 」
「だから、俺が二週間も留守したから、俺がおらんことに耐えられへんかったから、さらに壊れたというとこちゃうかな。」
俺のことを忘れれば、俺の代わりが必要になる。ひとりが好きだった水都に、一人は寂しいと、俺は教えてしまった。だから、一人が楽だという感情が水都からはなくなった。その代わり、誰かが傍に居ることが必要になった。
「・・・やっぱり、二週間ってあかんねんな。」
「二週間で忘れられるわけがないやろっっ。」
「いや、あいつならできると思うで。ほんで、あんたは、結婚するつもりはないんか? 一応、老婆心から言うが、あいつは、好きとか愛してるなんてことは思てないからな。」
「できるかぁぁぁぁぁぁっっ。」
「まあ、せやろうな。でも、あいつ、俺を忘れてるんやったら、このまま、じわじわと侵食してくと、あんたのことが好きになると思うで。そういう生き物やから。」
「どあほっっ。あれは、ネコの人っっ。ネコがタチやって満足するわけないやろがぁぁぁっっ。ネコは入れられて、なんぼじゃっっ。」
「うわーストレート剛速球に下品やな。」
あけっぴろげた意見に俺は大笑いだ。どう見ても、俺より、ちょっと上くらいの女なのに、どこかおっさん臭さがあるような勢いだ。こんな女だから、水都も自分のことを話したんだろう。これだけはっきりと言われたら、こっちもはっきりと言いたくなる。
「方法はいろいろあるで? 」
「そんなことはええっちゅーのよっっ。それより、あんたに質問。」
「おう。」
「水都はいらん子? 」
「いいや。ものすごくいる子。」
「あんたら、別れ話とかは? 」
「そんなんあるわけない。あいつ、俺と暮らしてること自体が同居というレベルにしか考えてないで? 」
「でも、やることはやってんねんやろ? 」
「そら、まあ。」
「水都が好き? 」
「うーん、好きとかいうレベルではないねん。傍におって欲しいんよ、俺としてはな。水都の世話してないと、どうも調子が狂う。」