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永遠 そのいち

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永遠なんてものはない。
人は変わるし時代も移っていく。
だが、変わらずにいる努力は出来る。
他の余計なものが変わったり流れても、変わらずにあればいいと願うことはできる。


「結婚? また、無茶なことを言い出したで、このあほは。」
 唐突に、出された書類に目を遣って、浪速は苦笑した。そこにあるのは養子縁組の書類だ。確実な繋がりが欲しいと、同居人は考えたらしい。
「せやけどな、水都。」
「それで養子縁組して、それでも別れることがあったら、おまえ、どうするつもりや? こんなご大層なもんやってからでは遅いんやで? 」
 からかうように言ったら、ものすごい鬼の形相になった。だが、まだ笑っていられる。元々、こいつはノンケで、どこでどう蹴躓いたのか、俺を抱いた。
・・・だからな、もし、そういう女性が出てきたら、おまえは、そっちとくっついたらええんや・・・・
 永遠なんてものはない。今の気持ちが変わらないという保証もない。ただ、この時間は大切ではあるけど、それで縛ってはいけない。自分にはないだろうが、それでも擦れ違うことがあるかもしれない。だから、確約なんてしたくない。
「本気か? 」
「本気や。おまえ、これやってもうたらホモ確定の上、公表するようなもんやぞ? そんな怖ろしいことはせんでもええやないか。」
 まだ就職したばかりで、右も左もわからないというのに、なんとおとろしいことを考える、と、俺は笑った。出会う機会が増えていくのだ。これから、こいつにも出逢いがあるはずだ。
「俺は離さへんっっ。」
「今はな。・・・せやな、三十年しても一緒におったら考えたらんでもない。」
 よくよく考えたら、俺は生きてるか? の年数だ。そんなに長く生きているつもりはない。でもまあ、約束するなら、そのぐらい長いほうがええやろとは思った。三十年なんて時間、変わらずにいるのは難しい。静かに、ただ寄り添っているだけなら、どうにかなるかもしれない。けど、現実には働いて食べていくのだから、世間と付き合っていく必要がある。ふたりしかいない、という状況ではないのだから、何が起こるのかなんてわからない。
「俺は、絶対に、おまえを離すつもりはない。もし、ほんまに、おまえが好きやと思う女が出来たとしても、別れるつもりはない。」
「おおきに。」
 たぶん、俺は、特別な存在なんてものは作らないだろう、と、自分でもわかる。少し壊れているらしい俺は、他人は他人でしかない。それに感情を向けるというのが苦手だ。どういうわけか、花月だけは、それなりの感情がある。だが、それは、俺のほうの言い分で花月のものではない。
「そんなに深く考えんでもええやろ? とりあえず同居するけど、成り行きで、また、その時に考えたらええやないか。そうでないなら、俺は別に家を借りるで。」
「おまえ、それっっ。そんなん、絶対にあかんっっ。」
 卓袱台に置いたタバコを手にしようとしたら、押し倒された。花月は、ただいま盛り上がっている。だから、この話は、いつまでたっても平行線だ。それなら、勢いで誤魔化しておこう、と、俺は倒されて、そのまんま力を抜いた。
・・・・そういや、俺、ここんとこ、女とやってないな。・・・・・
 目の前に迫ってくる顔を眺めつつ、そんなことを考えていた。この関係になってから、俺は、こいつ以外とやっていない。そして、俺はつっこまれる役をやっているから、つっこむほうは、かなりご無沙汰だ。別れたら、俺、もう、できへんかもしれへんな、と、そんなことばかり考えていた。




 結婚なんてものは、自分にはできないものだと思っていた。というか、あまりやりたくないが正解だ。適当に遊んで付き合える相手を、変えていくほうが楽だからだ。それが、どうしても手放せないものを抱えてしまって考えが変わった。
 抱えてしまったのが、女だったら、結婚したいと言わなかっただろう。面倒だという理由で。俺は、べたべたと束縛されるのが苦手だ。適度に距離を置いてくれる相手なら問題はないのだが、そういう女性にお目にかかったことはない。いや、最初は、距離があるのだが、どこからか、それが狭められて、仕舞いになくなる。学生時代に、いきなり部屋に来て、掃除なんて始められて閉口したことがあった。掃除自体は有り難いのだが、料理を作るとかし始めて、まるで、その女のテリトリーかというぐらいに侵食されてしまうと、俺は窒息するのだ。
 ずっと喋っていることも面倒だし、何よりべたべたと擦り寄られるのが面倒だ。やるだけの関係なら、それでいいだろうと思っていたら、最初は、そうでも、やはり変化していく。俺が、女の所有物みたいな扱いになるのがイヤだった。だから、もし、手放せないと思ったとしても、となり同士に家を借りるぐらいのことになったはずだ。
 そういう意味では、浪速は理想的だった。相手が俺より無頓着で、束縛が嫌いという相手だったからだ。それなのに、俺にだけ馴染んでいた。ふたりして、同じ部屋で別々に過ごすのも当たり前、下手をすると食事も別々なんてこともあるほど勝手気儘で、時たま、俺が料理すれば、浪速は嫌がりもせずに食卓につく。食べたら、後片付けもしてくれる。そんな関係だ。
 そして、浪速は放置すると、生きているだけの状態になるので、手をかけようと俺が動くことになる。でも、それで、浪速は感謝することもないし、べたべたとくっついていることもない。それが、俺には何よりだった。傍に体温があるけど、それに束縛されることがないというのが、俺には有り難いことだった。
「おい、研修は、第二会議室やで、吉本。」
 就職して、最初の二ヶ月は研修が、ほとんどだ。一応、部署は決められているが、そこに座っているのは一日の半分がいいとこで、後は研修で同期一同で、知事や収入役の有り難いんだか、なんだかわからない話とか、実際の実務とかの勉強をさせられる。定刻には終るから、これで給料がいただけるというのは、申し訳ないほどだ。
「今日はなんやった? 」
「正しい地方財政の知識とかなんとかやった。」
 同期で仲良くなったのは、隣りの課にいる御堂筋という男で、適当に付き合うには、ちょうどいい感じの男だ。それとつるんでいれば、聞き漏らしたことを、お互いに補完もできる。
「今夜、コンパらしいで。年上のおねぇーさんたちと。」
「え? そうなんか? 」
「あれ? 連絡行ってへんか? 」
 およ? いきなり、はみごが? と、御堂筋はからかうが、実際は、俺が課内の連絡メールの確認をしていないだけだ。
「俺、パス。」
「そうか、ほんなら知らんかったで通しとき。」
 御堂筋という男も、割と気楽で気良しで、付き合うのは楽だ。わざわざ、出ろとは言わない。それで、俺がハミゴになっても、こいつは気にしないだろう。
作品名:永遠 そのいち 作家名:篠義