断片
小さなココロ
「コラ、そんなことしてちゃダメだよ」
「だって~」
「いいかい!男の子は泣いちゃいけないんだ!!大切な女の子を守るためにいつも強気でいなくちゃ」
「ぐすっ……うん、ぼく……頑張る……」
「よぉし、偉い子だ。お姉さんは強い男の人は大好きだ」
「んふ……ぼくも……お姉ちゃんのこと……好き……」
「相思相愛だね。キミが10年経っても私のことを好きだったら尋ねてくるといい。その時には真剣に交際を考えてもいい」
「…うん」
「なーんてね。大丈夫。強い男の子だったら女の子がほっとかないよ。君はなかなかカッコイイ顔をしているからね」
「カッコ良なんか……ないよ…」
「今はカッコ良くないね。泣いちゃっている。どんな時も泣かない強い子になろうね」
「なる……誰にも負けない…強い子…に……なる」
「いいこいいこ」
「うん…」
僕が彼女のことを考えるときに思い浮かぶ一つの回想だ。
記憶に間違いがなければ、僕が同級生の田島くんに虐められていた帰り。憂さ晴らしに小さな子犬をいじめていた。餌を長いこと食べていなかったからか、息の根がすぐにでも止まるんじゃないかと思うくらいに弱っていた。動物を虐待しているシーンを、汗ばむジャージを着た上級生の子が僕の所にやってきた。当然の如く、説教を貰った。
彼女は自分より立場に弱いものを虐めているのと僕がやっていることに差異があるのか問いただしてきた。僕は人間じゃないんだからいいんだ、と返事をしたけど、彼女は人間じゃなくても、と言葉を投げつけた。
小さな頃の僕は年上の女の子に反論できることなく、グズグズと泣いてしまった。彼女は慌てて、僕が泣くのを止むように言葉をかけてくれた。
良い言葉だった。
今の僕は強い男になったのかな。いじめっ子にも負けずに、弱い子にならないように、走り始めた。バカにされているけど、見返してやる。田島くんは足が早いけど、僕も頑張れば早く走れるようになる。
運動会では好成績を収めた。田島くんは僕の頑張りを認め、バカにされないようになった。
彼女が僕を見ると成長したように感じられるかな。少しは男として認めてくれるかな。あの約束は今も大丈夫かな。
名前も顔も覚えていない彼女。
これからも心の中であり続けることだろう。
またどこかで会えることを期待して今日も外へと出かけた。