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だうん そのなな

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 つまり、ふたりして、今回のことは、半年前から密かに動いていたらしい。関西統括部門を作るのは、一年前から計画されていたが、それを、どこへ置くかで揉めていた。本来は本社にあるのが妥当なのだが、堀内の部下は、ほとんどが関西在住で、それらを移動させるよりは、部門を、関西に置くほうが安上がりであるということと、関西では、ちょろまかしや持ち逃げはできないのだと、他の部門に知らしめるために、わざわざ、問題のある従業員を引き取って、実験したらしい。そして、俺は、その摘発に、一役買っていたのだ。それも、当人には知らせずに、だ。
「つまり、俺が監視している限り、問題は起きへん、と、アピールしてくれたわけか? わざわざ、俺と問題起こすの判っとって? 」
「いやいや、そやけど、ものすごーい評価上がったんやで? みっちゃん。ほんで、関西統括責任者に就いてもらえるんやないか。」
 最終的には、俺の評価を底上げする形になって、管理職というものに、関西を離れずに就けることになっている。給料も待遇も、それ以前とは、かなり格上げされたらしい。
「東川と嘉藤と佐味田が、以前、おまえがやっとった日報関連の仕事をこなす。そこから、資金を回す状況を判断して、関西の支店へ配分したってくれたらええ。・・・・せやから、朝は定時に来んでもええし、夜も、好きな時間に帰ったらええ。それだけの仕事やったら、定時過ぎぐらいで帰れるやろ? 」
「堀内のおっさんは、何するんや? 」
「わしは左団扇で、おまえの頭をはたいてるがな。ははははは。・・・・・冗談はおいといて、月の半分は、こっちにおるけど、半分は東海のほうを回してくるからな。おっちゃんは忙しいから、おまえが好きなようにしといてくれたらええ。」
「実質は、みっちゃんが、ここの責任者や。これで、バクダン小僧も納得してくれるやろう。」
 『バクダン小僧』の言葉に、他の人間が噴出した。ここにいる人間は、花月がバクダンを抱いて、俺を迎えに来た、その場にいた人間ばかりだ。
「まだ、続いてるとはなあ。」
「なかなかできへんこっちゃけど、あれは傑作やったわ。」
「あははははは・・・・いやあー人生長なると、おもろいもんを見られるで。」
 たぶん、花月が、これを聞いたら、今度こそ本当に、ここを爆破するに違いない。重要な話が終わったところへタイミングよく、お茶が運ばれてきた。座れ、と、堀内の横に座らされて、他の三人が対面に座って、とりあえず、お茶を啜る。

・・・・これは逃げるとか以前の問題やと思うんやけど・・・・・

 騙されていたというか、いいように手のひらで転がされていたというか、そういうところなのが、腹立たしい。
「みっちゃん、怒ったらあかんで? ごはん奢ったるからな。お肉がええか? お魚がええか? 」
 沢野は、本当に食えないおっさんだ。計画したのは、堀内ではない。たぶん、この口八丁手八丁の沢野に違いない。
「一発殴らせろ。」
「あかんて、おっちゃん、もう年寄りやからな。みっちゃんにしばかれたら死んでまうからな。なあ、怒らんとってな? 堀内はしばいてもええから。」
「おいおい、沢野はん、それはないやろ? 」
「まあまあ、みっちゃん、この人ら、かなり善行をしたつもりやから怒ったらんといてくれ。やり方はあこぎやけど、みっちゃんを幹部に引き上げたからな。」
 東川さんの取り成しを受けて、仕方なく、俺は頷いた。仕事自体は、以前にもやっていたことだから、難しいことはない。やっていた範囲が広がって、雑用がなくなったという感じだ。
「わかったわ。俺、旦那から『土日祝日は確実に休め』って言われてるから、それだけ守ってくれたらええ。」
「それは、いけるやろ? 問題はない。さあ、沢野はん、なんぞ、みんなに奢ってもらいましょか? 東川、何がええ? 」
 もう、俺は責任者に確定したらしい。堀内のおっさんが、昼飯について場所を決め始めて、みんな、その話題にのっかってしまったからだ。








 どうやら、俺の嫁は昇格したらしい。だが、当人は、面倒やと文句を吐いているが、雇用条件が改善されてしまったので、辞めることはできなかった。以前のような忙しさでないのなら、まあ、ええか、と、俺は早々に辞めさせることは諦めた。たぶん、何があろうと、俺の嫁は辞められない仕組みになっている。
 それでも、俺が定時で帰るよりは、ちょっと遅いので、食事の準備は、やっぱり、俺の担当だ。本日は、こっそりと贈られたものについての、こっそりとしたお返しの日だ。
「ただいまぁー。」
「お帰り、風呂入るか? もうちょっとやねん。」
「うん、ほんなら入るわ。」
 まだ、二日目で、身体が慣れないらしく草臥れている。一ヶ月も自堕落に過ごすと、会社での時間が早すぎて目が回ると、愚痴りつつ、風呂場へ俺の嫁は消えた。





「給料上がるらしい。でもな、使い込みとかちょろまかしが判明すると、減俸になるらしい。」
「ふーん。」
 髪の毛を拭きつつ、俺の嫁が食卓にやってきて、立ち止まった。
「あれ? 」
「ん? 」
「なんか白いもんばっかしやな? 」
「今日は、そういう気分なんや。草臥れてるから、あっさりしたもんがええやろ? 」
 食卓に並ぶのは、蒸し鯛のあんかけ、長いものすりおろし、揚げ出し豆腐、そして、白ミソ仕立ての味噌汁だ。甘い物が苦手な俺の嫁に贈るなら、白い食べ物でいい。
「長いも、卵も入れるか? 」
「いや、これだけでええわ。あー食い易いわーこれ。」
「そうやろそうやろ? 鯛もええ感じやで。」
「うん、うまい。」
「はははは・・・ちゃんと、おまえ用に冷ましといたったからなあ。」
「なあ、花月。」
「ん? 」
「なんで、白ミソなん? うちの家で、こんなん見るの初めてやねんけど。」
「あー、一品くらい甘いものを食わせてみたかったから。でも、酢味噌とかは、これで作ってるで? 」
「甘いもんて・・・・白メシに甘い味噌汁はあかんやろ? 」
「いややなあー俺の嫁。これ、ホワイトデーやんか。あまえが、こっそりとくれたチョコケーキのお返し。愛が一杯やから。」
「・・・・・どこの乙女や? おまえ・・・・」
「吉本家の花月でーす。なんなら、浪速家の花月でもええ。」
「どあほ、メシで遊ぶな。ぼけっっ。」
 照れ隠しに、俺の嫁は、俺の足を蹴って、黙々と、その味噌汁を飲んだ。まあ、愛の言葉をくれるほどには、酔ってないからしゃーないか。
作品名:だうん そのなな 作家名:篠義