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風はつめたいけどあたたかい春。

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大江さんが一通りしゃべり終えると、ベンチに座った時は真上にあった日は既に傾いていた。
「じゃあ、大江さん。そろそろ僕帰るよ。僕が言える事じゃないけど、今日はゆっくり休んで明日を考えようよ」
そう言って僕が立ち上がって家路につこうとすると、大江さんは僕の服の袖をつかんだ。
「あの・・・・・・私ね、名塚さんと同棲してたの」
大江さんは俯きながらそう言った。
「さっき話してくれたね」
「でね、その別れ話も家でしてそのまま飛び出して来たんだ」
「・・・・・・うん」
「だから今、家に戻るにも戻れなくて・・・・・・だからその・・・・・・しばらくの間、先輩の家に泊めてくれませんか」
僕は耳を疑った。
確かに彼女は今百歩譲って、帰るに帰れない状況だ。
だけど僕の家なのか? 
僕も男だよ。ちょっと警戒してもいいんじゃないのかな。というか、しないとダメだよ。
「僕、男だし・・・・・・友達とかの家の方がいいんじゃないかな」
「・・・・・・私ね。名塚さんと付き合ってるときから、他の女性には私ってあまり好かれなくなってね。名塚さんって明るくて面白いから、独り占めしてた私が面白くなかったんだろうね。だから友達なんて東京にいないの。・・・・・・だから・・・・・・ゴメン」
大江さんは泣きながら話した。
女性の涙は「汚い」、って言う人はいるけど、今の大江さんの涙はすごく「綺麗」だった。
意味はちょっと違うかもしれないけど。
「・・・・・・じゃあ、いつまでも僕の家に居てくれて良いよ」
僕がそういうと、大江さんは泣いたまま顔を上げて立ち上がった。
その表情は少し嬉しそうにも見えた。
「・・・・・・ありがとう」
「うん。ただ、泊めるのに条件が一つ」
大江さんは泣きやんで、嬉しそうな表情を少し強張らせた。
そして僕は口を開く。
「僕と友達になること。いいね?」
そういうと、大江さんは僕の腕に抱きつき声をあげて泣き出した。
「ありがとう」
彼女の嗚咽の間に確かにその言葉は聞こえた。
そして、大江さんが泣きやんでから僕たちは手をつないで家路についた。