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だうん そのご

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「・・・・みっちゃん・・・・」
「なんや? 」
「これしかないんか? 」
 堀内は情けないという顔で、弁当を俺に向ける。
「あらへんで。後は、このパンやから。うどんとパンはあかんやろう。」
「・・・あいつ・・・ほんまに、あほやな? 」
「あほやなかったら、俺なんか嫁に貰わへんと思うで。」
 せやな、と、言いつつ、おっさんは、無言で弁当に箸をつけた。





 ピンクのハートが飾られた弁当なんてもんは、テレビドラマの世界だけだと思っていたので、実物が現れた時は絶句した。それも作ったのが、女子高生とか若いOLとかいうなら、わしも驚かなかったかもしれない。
 作ったのは、三十を越えたクソガキで、食べさせる相手も三十を越えたボケガキというのが、非常に不愉快な事実だ。十年も生活していて、まだ、そんな甘ったるいことをするのか、あのクソガキの頭を分析してもらいたいと思う。それも愛想の欠片も何もないボケガキが、それで喜んでいる節はない。目の前で、もそもそと食パンを食っている水都は、半分義務で食べているような生き物だ。愛情をかけた弁当というもの自体を認識しているかどうかが怪しい。
「これ、毎日、作ってもらっとんのか? みっちゃん。」
「おう、そうやで。俺は、そんなに食われへんって言うんやけど、やめるつもりはないらしい。」
 へんっっと鼻息で面倒だと現して、ベーコンを噛んでいるところを見ると、やはり弁当を作って貰えることについての感慨なんてものは感じられない。だが、文句を吐きつつも食事しているわけだから、十年で、そういう躾けはされたということだろう。
「来週の木曜日の予定はあるか? 」
「いいや。」
「ほな、空けといてくれ。朝のうちに迎えに来るから、スーツで待機しといてや。」
「わかった。」
 クビは認められないと言うたので、大人しく頷いた。いや、納得がいかないとなれば、逃げるだろうが、それをさせるつもりはない。
「お昼おごったるからな。」
「ああ、せやせや。これ、沢野のおっさんに叩き返しといてくれ。」
 唐突に思い出したのか、自分の背後のチェストから、クリップで留められた札を、水都が差し出した。
「なんや、この金? 」
「沢野のおっさんが、「ソープに行け」、言うてくれた。あのおっさんから金なんか貰うと碌なことあらへん。」
「それは賢明な判断や。」
 それを受け取って胸ポケットにしまったら、追い討ちをかけるように、メモ用紙とサインペンを渡された。さすがに、わしの教育は息づいているな、と、苦笑して、そこに、「金五萬円受領」 と、書いてサインした後に、つき返し、うどんをすする。インスタントの出汁で作られているが、ちゃんと味付けされていて、肉とじうどんは美味い。
「みっちゃんの作ったうどんが食べられるなんてなあ。」
「いや、それぐらいは作れるから。」
「他は、何ができんねん? 」
「簡単な煮物とかぐらいはできるけどなあ。花月のほうが上手や。」
 年季が違うからなあーと、水都は楽しそうに笑いつつ、野菜スープを飲んでいる。それらは、全てバクダン小僧が作ったものだ。
「花月のあほは、おまえの作ったもんのほうが美味いとかぬかしとるんちゃうか? 」
「そうやねん、あいつ、味覚おかしいで。」
 いや、おまえらが幸せやったら、ええねんけど、目一杯に惚気るのは勘弁してくれ、と、堀内は内心でツッコむ。
作品名:だうん そのご 作家名:篠義