その光景
小さい頃いじめられっこだった、引き篭もりの女は、投げた。
かつての自分とあの女の子を、同じように重ね見て。
正義感の強い、肉体労働が好きな女は、投げた。
少年達のしている行動に対して、腹を立てて。
なかなか思うような絵が書けず、イライラしている男は、投げた。
周りが投げているなら、俺も投げてやると意気込んで。
学校の先生になるために猛勉強をしている、心根の優しい男は、投げた。
少年達が誤った行動をしているのを、戒めるために。
風邪をひいたせいで、部屋から出してもらえない男は、投げた。
頭が痛いんだから、これ以上うるさくするなと文句をつけるために。
○
男の子たちの頭の上に、どんどんいろんなものが投げられていく。小さな石ころに、ちびったえんぴつに、丸めたメモ用紙に、くしゃくしゃのティッシュに、さっきのガムの包み紙も。
「うわっ、なんだこれ!?」
「気持ち悪ぃ!」
「これ、誰がやってるんだよ!」
私のほうには、何も投げられてこない。何が起こっているのかよくわからず、ぽかんとしていると、男の子たちはわぁわぁ言いながら、私の家とは反対方向に走っていった。
男の子たちがいなくなり、目の前に落ちているものをぼんやりと見ていたら、ぽてん、とそこに何か落ちてきた。
拾ってみると、それは、きれいな橙色のミカンだった。首をかしげていると、さらにこてん、と今度は包み紙に入ったチョコレートが落ちてきた。
包み紙には、「まけるな、なくな、つよくあれ」と書いてあった。
私は、さっきの出来事をお母さんに話すために、走って家に帰った。
かみさまが助けてくれた、きっとかみさまはミカンが好きなんだ、と話すために。
○
「赤木さん、家の前にごみがいっぱい落ちてるんですけど、何か知りませんか?」
「あぁ、それ俺らがやったんだ・・・ごほッ、留宇、悪いけど片付けといてくんねぇか?」
「なにやったんですか、風邪ひいてるのにいい大人が」
「まぁいいじゃねぇか、ちょっとした人助けだよ。な?」
「えぇー・・・・・・」