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だうん そのよん

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 台所で、仲良く喧嘩している声がする。なんだかんだと言うが、ふたりとも気が合うらしい。どうやら、材料が切り終わったらしく花月が戻ってきた。
「どうや? 」
「長くはあかん。」
「わかった。」
 長く座っていられるか、という質問だ。いつも、俺が寝たきりになると、花月は、寝たまま食べさせてくれるのだが、さすがに、おっさん二人の前だし、こたつでは難しい。どうするのかと思っていたが、とりあえず、寝とけ、と、手を下に合図した。
「さあさあ、ようやく始められるか。・・・・とりあえず、肉。」
 堀内が、脂身を落としている。俺は、すき焼きなんて作られたものしか食わないから作り方が、今ひとつわからんのだが、花月が黙っているところを見たら、あれで正解なんだろう。
「関西風か。久しぶりやな。」
 沢野は、ちびちびと焼酎を口に含みつつ呟いている。中部は関東とも関西とも料理が違うので、慣れるまで苦労したと聞いている。
「あーーーーおまっっ、それっっ。」
「うちでは酒は料理酒や。」
 一枚肉を焼いて、そこに砂糖、酒、醤油で味付けして、野菜を投入して、その野菜から染み出す水分で、さらに、肉を焼くというのが、基本ルールだが、うちの家には酒というものがない。いつもは、白湯か水だ。で、堀内のおっさんが、ええ酒を持って来たと言うたから、花月が、それを投入したのだ。さぞかしおいしいやろうと、俺は、そのどつきあい漫才を笑いながら見ていた。



 おもろい漫才も、すき焼きが出来上がれば終わる。さあさあ、と、食べられる段階になると、堀内は冷酒をくいっとあおって、それから箸を付けた。沢野も、ほくほくとした顔で口を動かしている。俺、どうやって食うかなーと思っていたら、こたつの上に茶碗が置かれた。それから、かなり大きめの器に、たまごをつけた白菜とか糸こんとか肉とかが、ちまちまと置かれていく。冷やさないと食べられない俺の場合、鍋物は、こういう算段になる。それから、小皿に梅干と、お粥さんの入った茶碗と冷たいお茶が準備される。
「お待たせ、水都。」
「うえ? 」
 ゆっくりと起き上がらせられて、俺の背後に花月が胡坐で座りこんだ。それにもたれるようにして俺の身体は支えられて、箸を渡された。
「座椅子ないから、とりあえず、これで。」
「ああ、座椅子な。・・・・こんなに食えへんで。」
「いや、肉は食うとけっっ。おっさんからの貢物やねんから、めっちゃ高いぞ。」
「そうか、ほな、おまえが俺の代わりに食うとけや。俺、高いもん食うと消化不良起こすさかい。」
「食えるだけでええから。」
「わかってる。・・・・おまえ、お茶でも飲むか? 」
「せなや。」
「すまんのーー腹減ってんのに。すぐ終わらせるわ。」
「ゆっくりでええで。お粥さんも食べや。」
「はいはい、おまえ、マメすぎ。・・・口に入れたろか?」
「ええから、自分が食べ。」
 たぶん、この二人、いつも、こんな会話を、ふたりっきりでやっているんだろうなーと、沢野と堀内は唖然としている。親父たちの存在を忘れているのか、いつも通りのことなので気にしていないのか、おまえら、どこの熱々新婚さんやねんっっ、ということをやらかしているのだが、当人たち、ごく普通だ。たぶん、これが素だ。
「なんか微妙に寂しい気分や。」
 沢野が、はあ、と、息を吐き出して、ぐいっと焼酎を飲む。
「わし、かなりムカつくわ。」
 対して、堀内は、けっっと吐き出して、冷酒を一気飲みした。



 当人たちは、いちやいちゃしているつもりはないので、淡々としている。
「なあ、みっちゃん。」
「なんや? 沢野のおっさん。」
「それ、欲しい。」
 それは、水都の背後に座っている花月のことだ。ちまちまとお粥を食べていた水都を、のんびりと観察しつつ、ウーロン茶を飲んでいる旦那だ。水都と同じ職場に勤めるということなら、ふたりして本社へ移動させられるので、沢野は、そう言った。だが、だ。ふたりの言葉に、さらに絶句する目に遭わされた。
「あかん、これは、俺のもんや。手を出したらしばくぞっっ。」
「悪いけど、俺、水都以外の男はあかんから。」
 いや、おまえら、もう、ほんと、その天然告白大会は何ごとなんよ? と、堀内は、さらに度肝を抜かれた。いつもは単品で会うことが多いから、ふたり揃ったら、こんなに強烈だとは知らなかったのだ。
作品名:だうん そのよん 作家名:篠義