夢見る明日より 確かないまを
8
その日の放課後、司が飯田に声をかけられた。
「ちょっと、顔かしてくれない?」
話の内容は大体予想がつくだけに、断らなかった。
「あんた、余計なこと岡本孝志に吹き込んでんじゃないわよ!」
「余計なこと?俺は余計なことなんて何一つ言ってないけど?」
・・・腹が立つ。
この女さえいなければ、こんな気持ちになる事は初めからなかったような気がして。
心の冷静な部分はそれが八つ当たりだとわかっているけれど、抑えられない。
「雅実はね、女の私からみたってすごく良い子なのよ。岡本を1年間もずっと好きで、やっと付き合えたのに、あんたが『大して好きでもないのに付き合うなんて失礼だ』とか岡本に吹き込んだおかげで台無しよ。これから好きになる事だってできるかもしれないのに」
「・・・」
確かに、孝志は好きになっていけそうな気がする、と話してた。
孝志へのアドバイスは、その気持ちを食い止めようとする下心がなかったわけじゃない。
何も言い返さなかった。
「あんた、もしかして岡本のこと好きなんじゃないの?岡本が雅実と付き合う前はあんたと岡本がホモだって噂がたってたくらいなのよ」
俺と孝志が?
・・・バカバカしい。
「否定したかったら、あんたも誰かと付き合えば良いじゃない」
「・・・大して好きでもないのに誰かと付き合う気はないよ」
「好きになるのなんて、付き合ってからで十分じゃない!いつもいつもそうやって大人ぶってて、そういうのすごいムカつく!!」
「そういうつもりはないし、恋愛観の違いはどうしようもない」
冷たく、そういいきった。
飯田はしばらく黙った後、言った。
「・・・そんなに言うなら、試してみればいいじゃない」
「は?」
「付き合ってから好きになるのが本当に無理かどうか、試してみればいいわ」
「何言って・・」
「私と付き合いなさいよ、松下」
「え?」
「付き合ってからでも好きになって欲しいのよ!!」
そう叫ばれた。
この前雪村たちとの会話を思い出す。
『お前のこと狙ってる女子、結構いっぱいいるぜ?俺、飯田なんか怪しいと思うんだけどなー』
・・・まさか、図星?
「どうなのよ、松下」
「・・・悪いけど、俺には好きな人がいるから」
「やっぱりそれって岡本の事じゃないの?絶対そんなの気持ち悪がられるに決まってるんだから!」
・・・そんなことはもうわかってる。
「それ以上言ったら、本気で怒るよ?」
そう言い置いて、教室へ戻った。
「司、どこ行ってたんだ?」
「ゴメン、ちょっと用事」
「珍しいな。帰るだろ?」
「うん」
二人で歩く、帰り道。
いつもと何も変わらない日常。
違うのは、胸の痛み。
どんなに近くにいても・・・
どれだけたくさんの言葉を交わしても・・・
届かない心が、揺れるだけ。
続
作品名:夢見る明日より 確かないまを 作家名:律姫 -ritsuki-