夢見る明日より 確かないまを
3
「そういうことで学内での名前呼びは控えるように」
・・・何も言えなかった。
自分の中に落ち着いてしまった事実が衝撃的すぎて。
「松下、わかったか?」
「・・・はい。定例会終わりですか?」
「ああ、解散」
生徒会室を出た。呼び止める声が聞こえたけど、振り向かなかい。
これ以上、あの二人と一緒にいて平静でいられる自信が無かったから。
何も考えずに歩いて、たどり着いたのは花壇。学校で最も人気が無くて静かなところ。
昼休み終了の予鈴が校舎の中から聞こえたけれど、教室に帰る気は起こらなかった。
「・・・ずっと・・・」
想って来たのに。あんまりだ。
「ずっと、なんだよ。」
聞こえたのは、絶対に今聞きたくない声。
「・・・なんでもないです」
「さっき岡本に俺のこと好きなのかって聞いたときの反応、あやしかったよな。お前、どう思う?」
・・・やめてほしい。
聞きたくない・・・聞きたくない。
「でも安心しろよ、松下。俺は他に好きな奴がいるから」
「え・・・?」
「そいつに振られない限りは岡本に手出す気はないしな」
それは、つまり、振られるようなことがあったら孝志に手を出すかもしれないってこと・・・?
「上手くいきそうなんですか?その人と」
上手く行ってもらわないと困る。
孝志の・・・親友の恋路を邪魔するなんて最低だってわかってる。
でも簡単に譲れるような想いなら、最初からこんな気持ちになんてならない。
「まだわからないな」
「そうですか」
わからないってことは、しばらくは問題ないってこと。
「でも、すぐにわかるよ。今すぐに」
「は?」
「松下が俺と付き合うなら、岡本には手出さない」
迫られたのは選択。
この提案を拒否して、これからずっと孝志と行田先輩の関係を耐え続けるか。
それとも孝志に最低だと思われるのを覚悟で、これを受け入れるか。
決断の言葉は、予想よりもずっと早く口から出た。
結局、俺も心の弱い人間だった。
孝志と行田先輩がそういう関係になるなんて耐えられない。
最低だと言われても、絶縁を言い渡されても他の誰かに孝志をとられるなんてまっぴらだった。
孝志が俺のことを省みてくれなくなる前に、その可能性を奪う。
俺はどんなことがあっても、孝志が見えなくなったりしないから。
「・・・行田先輩と・・・付き合います」
「正しい判断だろうな。安心しとけ。岡本には黙っておいてやるから」
それでも孝志には、いずればれることになるだろう。
その時に最低だと詰られても、何もいえない。
それを覚悟で・・・この道を選ぶ。
「授業始まる。教室に行くぞ」
返事なんかできなかった。
ただ黙って、行田先輩の後をついていくだけ。
作品名:夢見る明日より 確かないまを 作家名:律姫 -ritsuki-