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書評集

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島田雅彦「優しいサヨクのための嬉遊曲」


 この小説のラストは、主人公千鳥の恋の相手であるみどりの、「考えることは悩むこと。考えてはいけない」という言葉で終わる。そして、その言葉は、聖母の全人類を救済する言葉だ、と島田は書いている。この考えないこと、つまり、論理を動員せず、停滞せず、物事に真摯に向き合わないこと、その態度がこの小説に一貫して流れている。確かに論理も出てくるが、それは受け売りのものであったり、物事を簡素化するものであったりして、主人公の直面する事態についての深刻な論理の錯綜は見られない。論理は一種のそぶりとして使われる。つまり、考えていないのに考えたふりをするために論理が使われているのである。この態度は描写にも顕著に表れており、対象に深く食い込むような描写はなく、むしろ、非常に表層的で感覚的で機知に富んだ描写が用いられている。
 20代初めの時期、人間はまだ物事を考えるのに適した経験も積んでいないし理論武装もできていない。そのような状態で、過剰な人生と向き合った時いかに対処するか。停滞し思考の泥沼に落ち込んで神経症になるか、それとも思考をした振りだけをして、あらゆる問題を先送りし、その場の動物的・感覚的・実践的な直観でとりあえず行動していくか。恐らく人間はこの両極の間の様々な段階の態度を取るのではないだろうか。島田のとった態度は、極端に浅薄で感覚的な、一方の極をなすような態度だった。
 ところが、この小説を読み終わったときには、非常な虚しさを感じる。恋愛やサークル活動が書かれていても、何一つそれらを十分味わった気がしないのである。ただ出来事だけが表層的に感覚されていくだけで、その味付けが薄い。実は島田は、暗にこの虚しさを書きたかったのではないだろうか。軽佻浮薄に気楽に生きているポーズをとりながら、そのポーズが必然的に導く底抜けの虚しさ、本当はそれを書きたかったのではないだろうか。

作品名:書評集 作家名:Beamte