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だうん そのに

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結局、看病をしたのは病院に連れて行っただけだ。風呂に浸かりつつ、ふうと息を吐いた。
「水都、溺れる前に出てこいよ。」
 外から声がして、物音がした。着替えを用意してくれたんだろう。それから歯磨きをしている音がして、また無音になった。すっかりと体調が戻った同居人は、いつものように動いている。こういう時は、ちゃんとしなければ、と、意気込んでいたのに、仕事が予測しないよう転がって、世話どころではなかったからだ。

 本日も、本当なら夕方に帰るつもりだった。だが、出社したら、部下三人が病欠で休んでいた。わかりやすいサボりだな、と、思ったものの、今まで自分がやっていた仕事だから気にせずに、手を付けた。とはいうものの、それらの仕事が増量したら、いつもの仕事に食い込むわけで、部下が入る前の通常帰宅時間になってしまった。

 ・・・・・たかだか、叱っただけでこれかいな?・・・・

 仕事について叱っただけで、サボられるのか、と、俺はびっくりしたのも事実だ。仕事さえしてくれたら、俺は、別に気にしないが、それができないから叱ったのに、それでへそを曲げられたら、どうしたらいいのかわからない。

・・・・・向きじゃないからなー・・・・・

 とりあえず、出て来ないなら、以前のような仕事の段取りに戻ればいいか、と、結論した頃に、乱暴に風呂の扉が開いた。
「おまえは、何度言うたらわかるんやっっ。もう出ろっっ。」
 乱暴に風呂から引き上げられてバスタオルを頭からかぶせられた。さっさと着替えて、居間に顔を出したら、なんで、風呂上がりに・・・と、文句を吐きつつ、俺の旦那は温かいお茶を入れていた。
「梅ほうじ茶。ほんで、これ、飲んどき。」
なぜだか、旦那の病院から貰った薬を差し出された。
「え? 」
「うっかりしとったけど、おまえ、絶対に移ってるから。予防しとくにこしたことはない。」
「そうか? 」
「俺の看病して、一緒に寝たやろ? あれは、まずい。」
「うーん、そうかなあ。」
「なんでもええから飲め。」
 心配性な旦那なので、予防したいらしい。ひいてからでもええやろうと俺は思うのだが、いつものことなので気にしないで、梅干の入ったお茶と薬を飲んだ。
「どうにか持ち直したわ。」
「おう、早かったな。もっと長引くかと思たわ。」
「初日に盛大に熱出したからな。まだ、ちょっと喉はいがらいわ。おまえも、喉が変やったら早めに言いや。」
「はいはい。」

 いつものように返事したら、花月は困ったように笑って、「まあ、ええわ。」 と、頷いた。
「おまえの世話は、俺の専売特許やしな。俺のほうが早よ気付くから、おまえは、いつも通りにしとったらええわ。・・・・・明日は、なんか食べたい物あるか? 」
「うどん? 」
「・・・・もうええ。寝よか? 」
 食べたい物と言われても、俺にはない。一番食べやすいものが、麺類だから、簡単そうなものを言うと、花月は、首を横に振った。




 深夜残業が三日続いて、それから二日、俺の嫁は、やはりというか、当たり前というか潜伏期間を消化した頃に、熱を出した。わかりやすくインフルエンザなので、俺と同じように病院へ連れて行き寝かせておいた。
 これといって、看病することもないので、俺は半休だけして、出勤したものの、うっかりと嫁の職場へ休みの連絡をするのを忘れていたことに気づいた。職場についてから、連絡をしたら、「わかりました。」 という女性の素っ気無い声で言われて電話を切られてしまった。
 俺は、あまり嫁の仕事について詳しくはないが、以前、堀内のおっさんから説明されたところによると、嫁が近畿圏店舗の半分の経理と資金繰りを担当しているという。全てを一人でやっているわけではないが、統括しているのは嫁で、かなりの金額を動かしているらしい。それで、そういう重要なヤツが休んでて、あの程度で、済むのが不思議だ。

・・・・いや、部下が入ったとか言うとったから、それでなんとかなるんかな?・・・・

 二日三日なら、それなりに対応できるのかもしれないと思い直して、俺も、その件は忘れてしまった。





 定時上がりで家に帰っても、俺の嫁かダウンしたままだった。仕方がないだろう。疲れていたところへ悪性の菌に暴れられたら、誰だって動けない。クスリで熱は下がったのか、ちょっと呼吸は楽そうだ。
「ただいま。」
「・・・うー・・・・」
「着替えたら、おまえも着替えさせたるから、ちょと待っとけ。」
 服を着替えてから台所へ行ったら、出て行った時と、まったく変わらなかった。具合がよければ食べろと、お粥を用意したが、ここまで這ってくる根性もなかったらしい。枕もとの飲料水は減っていたから水分だけは補給している。いちいち、こんなことで怒る気はない。
 お粥を温めなおして卵を放り込んだ。それから、冷ます。とてつもない猫舌な嫁は、湯気が出ているだけで警戒する。だから、人肌程度まで冷ます必要があるのだ。
 熱いタオルで身体を拭いて、着替えさせたら、えふえふと咳をする。咳止めに、大根はちみつを飲ませて、飯を食わせた。
「ほれ、口をあけ。」
 食べる気のない嫁は、ぐったりベッドに倒れたままだ。いつものことなので、そのまんま、レンゲで冷ました粥を口元に運ぶ。これは、以外と楽しい作業だ。
「・・う・・・・」
「なんでもええから。・・はい・・・・はい・・・・梅干もはい。」
「・・・うー・・・・」
「唸っとるんやったら、もう一口。ほんで、クスリ。」
 一連の作業が終了すると、やれやれと俺は食器を下げる。それから、自分も食事して、風呂に入る。

・・・あの様子やったら、二日ぐらいで復活かな・・・・・

 風邪とか過労とか、いろいろとダウンする俺の嫁なので、だいたい復活までの時間もわかる。早めに予防したり、病院に連れて行けたから、復活も早い。いつもこうなら楽なのだが、普段は隠しやがるので、後手後手に回る。または、復活しかけた嫁を、うっかりというか欲望のままに、というか、俺がダウンさせてしまうので、一度のダウンで一週間が通常だ。今回だって、一ヶ月ぐらいご無沙汰しているので、ちとやばい。

・・・で、おまえは空気読めへんのよ、水都・・・・・・

 いつもは、一人で寝ているくせに、こういう時だけ一緒に寝たがるのだ、俺の嫁は。さすがに、あんなにぐったりしていると、俺も気を遣うのだが、足を絡ませられた日には理性が崩壊する時もある。

・・・いや、今夜はまずいやろう・・・・

 風呂から上がって、様子を覗いたら、案の定、俺の嫁は潤んだ目で、手を差し出した。
「・・うー・・・」
「かまへんけど、足を絡ませたりキスしたり胸を揉むなよ? 水都。介護老人並みの身体にさせてまうからな。」
「・・・う?・・・」
「いや、無意識にやってるんやろうけどな。てっっ、おまえ、言うてるしりから、それをやるなっってっっっ。」
作品名:だうん そのに 作家名:篠義