小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

だうん そのいち

INDEX|3ページ/3ページ|

前のページ
 

 もう一度、叱られる。わかってはいるが、自分には興味がないのだから仕方がない。あんまり目が真剣で、ちょっと視線を下げたら、そのまんま、花月は台所へ行って、さっさと冷凍うどんをコンロに仕掛けた。
「・・・これもな・・・・ほんで、風呂・・・・」
 袋から取り出したゼリー飲料を、無造作に口に突っ込まれて、それから、花月は風呂場を指した。風呂に入れ、ということらしい。



 結局、風呂に入って、うどんを食べたら俺は、花月のとなりで寝た。そうしないと眠れないくらい神経が高ぶっていたらしい。とんとんと背中を叩かれていると、どっちが病人かわからない。でも、この温かさが素直に嬉しいとは思う。
「・・・すまん・・・」
「・・・ええって・・・・仕事やから・・・・しゃーないやないか。」
 看病も、碌にできていないことを謝ったら、また、トントンと背中を叩かれた。花月は、いつも変わらず、俺のことを世話してくれるというのに、俺は、その半分もできていないのが、ちょっと残念だ。
「・・・ちゃんと、寝ーや・・・」
 おとついあたりから、あまり、ちゃんと寝ていなかった俺は、花月にあやされて気が抜けて目を閉じた。





 十分な睡眠とクスリで、どうにか風邪は、マシになった。とはいえ、声が出ないので、とりあえず、もう一日休むことにした。メールで同僚の御堂筋に、連絡しておいたので、うちの課長にも話は届いているだろう。ここんとこ、インフルエンザが蔓延しているので、休んでも文句は出ない。順番に、ひいているから、三日四日はダウンしているからだ。
「何もすんなよ? 」
「おうー」
「昼飯は、冷凍うどんな? コンロに置いてるから、昼ごろには溶けてると思うんで、それを食え。それから晩飯は、なんか買ってくる。遅くなったら、作ってあるお粥で凌いどいてくれ。」
「おうー」
 俺の嫁は、スーツに着替えつつ、ドタバタと暴れている。昨日はぐっすりと寝ていたから、体調はいいらしい。こちらも熱は、ほとんど下がっているから気分的には楽だ。とりあえず、具合がいいようなら買い物ぐらいは行こうと思っている。俺は、まだ、あんまり食えないからいいのだが、俺の嫁がスタミナ切れするといけないから、トンテキでもするかと考えていた。
「花月っっ、聞いてるかぁーっっ」
「おうー」
「今日ははよ帰るからっっ。」
 と、飛び出していった俺の嫁だが、結局、午前様で戻ってきた。そんなに忙しい時期でもないのに、おかしいなーと思ったが、仕事のことは、あまり聞かないようにしている。お互い、職場の愚痴は言わないのが暗黙の了解ごとだからだ。

 以前、俺が上司の愚痴ばかり零していたら、「俺に聞かせることか?  」 と、俺の嫁に質問されてしまった。確かに、あまり聞かせていいものではないし、愚痴ってばかりの旦那なんて幻滅されそうだ。聞かされても解決策もないものなんて、相談しているわけではない。ただ、負の言霊を嫁に浴びせているだけだ。嫁が怒るのも無理はない。それに、俺の嫁は、そういうことは何も言わない人間だった。
 だから、あれから、職場の愚痴は一切口にしないことにした。嫁からも聞いたことはない。でも、ちょっと心配になった。
「なんかあったんか? 」
「いや、なんでもない。あほがいろいろとしでかしよるんや。すまん、遅くなって。」
 買い物して料理したものを食卓に並べたら、嫁は少し困った顔をしてから、「おおきに。」 と、笑った。
「明日から復帰するんで、リハビリや。」
「高野豆腐とマメの卵とじって春やなあ。」
「せやなあー野菜の季節は先取りやからな。とりあえず、これ食べて、おまえは風呂入り。」
「・・うん・・・」
「前にも言うたと思うけどな。俺は、無理して、おまえが働くんは反対や。おっさんへの礼やっていうても、もう十分や。せやから、おまえ、専業主夫になってもええねんぞ。」
 毎晩のように残業している姿を見ていると、ついつい、そう言ってしまう。確かに、水都は人よりは稼いでいるが、俺も稼いでいるから、別に、貧乏ではない。無理してひっくり返る前に辞めて、バイトでもしてたらええと、俺は再三再四勧めている。高校生の時に、水都は年齢を詐称してバイトで入った会社に、いまだに勤めている。その時に、年齢のことを黙っていてくれたのが、堀内というおっさんで、いろいろと世話になったらしい。だから、その世話になった礼も兼ねて、水都は、多少、仕事がきつくても、そのまんま働いているのだ。それだって、もう足掛け十五年以上も働いているのだから、お礼奉公も終わっていると、俺は思っている。
「せやな。専業主夫もええかもな。」
 なんだか疲れているらしい俺の嫁は、そうぽつりと呟いて、春らしいおかずを口にした。
作品名:だうん そのいち 作家名:篠義