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月下部レイ
月下部レイ
novelistID. 19550
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恋愛遺伝子

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深く澄んだ湖のような、綺麗なブルーの瞳。夕陽を浴びて銀色に輝く髪の毛。
見つめられたら身体が竦んでしまいそうなほどの端正な顔。
初めて彼に会った時。
涼城景から目を離せなかった。初対面の人間に、自分でも理解し難い感情を持った理由などわからない。
ただ第一印象が、いつもより少し良かっただけだと。日下部侑也はそう思うことにした。

当たり前だが。人は初めて逢った人間に対して。正であり負であり、些かな印象を持つ。
好きなタイプだとか、あるいは苦手なタイプだとか、生理的にちょっと、とか。
まあ、なかには全く興味を抱かない相手もいるかもしれないが。
日下部にとって、涼城は特別だった。

関西育ち、根っからの関西人。
長めの黒髪で日本的な顔立ちにメガネを掛けた自分とは、何をとっても全く違うタイプに見えたのに。
高校転校1日目に、1番興味を持ったのは同じクラスになったこの少年かもしれない。
涼城と友達になりたいなと。今まで感じたことの無いような好印象を持った。
これも偶然なのか。
日下部が入部希望を出したフェンシング部の部長も涼城だった。

クラスも部活も一緒、同じ時を過ごすうちに。
涼城の性格も自分とは全く違うことがわかった。自信家に伴う、実力。
日下部が定期テストでどんなに頑張っても、首席の涼城を抜く事はできなかった。
万年2番に甘んじる事になるとは、転校した当初は思いもしなかったが。
自分とは天と地ほどの差があるのではないか。そう思えた。
フェンシング部部長で生徒会の会長も務めている。全校生徒の憧れの的と言っても過言ではない。
地味な自分とは、雲泥の差だ。





部活も休み。暇なので、生徒会の仕事があるから残ると言った涼城の手伝いでもしようと、日下部は生徒会室までついて来た。
他の役員を涼城は帰したのだろうか、生徒会室には自分達の他は誰もいない。
シンとした部屋の奥にある会長室で、涼城と日下部は作業を始めた。

「なあ、日下部そこの資料取ってくれよ」
「あぁ、これか?」

日下部の傍にある机の上に置いてあったブルーのファイルを手にして、涼城に差し出した。
ありがとう。と目は予算表に落としたまま、手を伸ばした涼城の指先に、自分の指が触れた瞬間。
背筋に電撃が走ったような感覚が。あっ、と小さく呟いてしまった。
一瞬で全身の血が、頬に集結したような気がした。

「どうかしたのか?」

予算表から目をあげた涼城の視線とかち合った。不審そうな顔で、こちらを見ている。

「顔が赤いぜ」

「えっ、……あぁなんでもないわ。スズメがな、そこの窓ガラスに当たりそうになったから、ビックリしたんや」

よくもまあ、咄嗟にそんな嘘がつけるものだと、自分で感心した。
涼城の指が自分のそれに触れたくらいで。好きな女の子の手を初めて握った時みたいになるなんて。

すぐに涼城も振り向いて、窓ガラスの方を確かめる。
「いくら綺麗に磨いてあるといっても、それはねえだろ」

クスリと笑うように、涼城の綺麗な顔が微笑んだ。
そんな涼城の顔にも、ドキリとする。
いったい自分はどうしてしまったのだろう。

「そうやな、いくらスズメでもな……窓ガラスにぶち当たるようなドジなまね、せえへんよね……」


ほんまに、スズメは窓ガラスに衝突するようなことは無いのだろうか?
自分がスズメなら、たぶん今、窓ガラスに激突したと思う。
この瞬間に気付いてしまった。
ファーストインスピレーションはいつの間にか、確信に変わっていた。
涼城とは合いそうやな、友達になりたいなが、いつの間にか、恋心を持つまでに。
同じ男やのに……。
冷静な頭の中では、一生懸命、恋愛感情を排除しようとするのに。
本能がそれを迎え撃つ。

しかし、いくら考えたって、同性はまずいだろうと思う。
日下部は何度か女の子と付き合ったこともある。女の子が駄目だというわけでもない。
それなりの恋愛感情もあったと思える。
でも、今、日下部の涼城に対する想いは、これまでのそれとは格段の差があった。
日下部を混乱させるだけの十分な威力があるのだ。

そのことに気がつき、自覚した瞬間に、全ての世界が彩りを変えてしまった。
一瞬に色づく世界。
呼吸の音が聞こえる。

泣きそうになるほど、切ない。
夢を見て。朝になって夢は覚めても。気持は現実にまで、影を落とす。
自分でも理解していなかった気持に、夢の中で気付かされてビックリすることがある。
それと同じだ。たった一瞬触れ合った指先に、日下部の将来が一変させられてしまった。

日下部は紛れもなく、涼城が好きだった。それも単なる人間としての、尊敬や憧れ、親愛に機縁とするものでは無い。
異性を対象とする恋愛感情に間違いなかった。

突然の感情の発見に、軽い酩酊状態のように、頭がクラクラした。

気がついたら、涼城の顔が鼻先近くまで、寄って来ていた。

「おまえ、ホントに顔赤いし、熱でもあるんじゃねえだろうな?」

覗きこんで来た涼城の瞳が心配そうに日下部を見つめる。

「大丈夫やて、熱なんてあらへんから」
額に触れようとした、涼城の手を丁寧に辞退した。
もし、今、その手で触れられたら、それこそ、卒倒してしまうかもしれない。

気持が急く。早く一人になって、一時でもこの感情を追い出す時間を作らなければならないと思う。

「俺、ちょっとトイレ」
そんなあからさまな嘘しか言えない。

もしも、涼城に胸の中に抱いてしまった感情を気づかれて、嫌われてしまったら。
自分は生きてゆけないとまで思ってしまった。
苦しくたって、切なくたって、これまで通り、親友として涼城の傍にいられるのなら、それでいいから。
涼城から嫌われるなんてことは、絶対に考えたくない。

なのに、自分はアホや。
慌ててたもんやから、机の下に置いていた自分のカバンにつまずいて、それはもう勢いよく倒れそうになった。
けいきよく床とランデブーと思った瞬間。
ふわりとその身体を抱きしめられた。

涼城の胸の中って、こんなに大きかったんや。そんなことを咄嗟に思う。
体格はさほど変わらないのに、がっちりと抱きとめた腕は筋肉質で頑強だった。

「涼城、ええ匂いがする」

動転していたのか、口にした言葉はそんなわけのわからない言葉だった。
おまけに涼城のシャツをぎゅっと皺ができるほど、掴んでいた。
そんな自分のおかしげな言葉と行動に、涼城の返事はなく、手が日下部の細い顎をいきなり掴んだかと思うと、顔を涼城の方へ向かされた。


「日下部、そんなに煽ってんじゃねえよ」
と耳元で甘く囁かれ、そのまま涼城の顔が近づいて、唇が重なった。

一体なにが起こったのか、すぐには理解できなかった。

何度も何度も、啄ばむように口づけられる。

これはキスなのか?まるで恋人にするような、甘いキス。
どうして涼城が自分に、こんなキスなんてするんや。
まだ少し残っている理性が問いかけるが、答えを見つける前に完全に消えていった。

蕩けるような口付けに、思わず、甘い吐息が漏れた。

「あぁ、う……」
まるで女のような高い声。自分のどこからそんな声が出るのか。

「だから、そんなに煽るんじゃねえって言ってんだよ、アーン……欲情するだろ」
作品名:恋愛遺伝子 作家名:月下部レイ