金木犀の魔法 壱
「そうだ。一言で書いたって構わないだろう。……アンケートなんだから、あまり難しく考えないほうがいいぞ」
あまり考えるな、と言われても夏陽の性分上それはできなかった。一度頼まれたことを投げ出すことだけはしたくなかった。
「でも、その、やっぱりよく考えてみます」
「そうか。終わるまで待つから、ゆっくり答えてくれ」
そういって頭を撫でられた。自分でも驚くほどに顔が熱い気がしたので、顔を上げることはできない。兄弟もおらず父にもあまりされたことがなかった夏陽は、気恥ずかしくなって今まで以上余計にアンケート用紙にかじりついた。だから常田が優しく暖かく見ていたことに夏陽は気付かなかった。
それから十分かけて、九問目を終わらせた。どう答えたのかは、伏せておく。
「さ、最後です。もう少し待っててください!」
「帰宅時間にはまだあるだろ。焦らなくていい」
「でも、先生もやるべきことはたくさんあるだろうし……」
「その先生が、宗川に頼みごとをしているんだ。待つのは当然だろう。そういうことは全く気にしなくていい」
トントン、と用紙を叩く。気にせず解け、ということなのだろう。申しわけなく思いながら、最後の一問と対峙する。またも空欄が大きいことは先ほど確認済みだったが、内容はまだ読んでいなかった。
「えっと、魔法・魔術で何がしたいですか? 貴方の思う考えを書いてください?」
またも固まりそうになった。最後の二問だけおかしい。ここまで何でもないような質問だったのに。夏陽は常田の顔を困った顔で眺めた。
「完全下校時間には一時間以上ある」
今度は苦笑された。
「頑張ります」
これには夏陽も曖昧な笑顔で答えるしかなかった。