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さかきち@万恒河沙
さかきち@万恒河沙
novelistID. 1404
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Light And Darkness

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ACT,2





 果てしない――記憶が巡る。


  『豊葦原の千五百秋の瑞穂の国は、
   是れ吾が子孫の王たるべき地なり。
   宜しく爾皇孫、就きて治せ』


 天孫と呼ばれる、神々の末裔たちにその命が下されたのは、二千年の時代を溯る、遥かな記憶の彼方のことだった。
 それは朧な、凪の闇の底。
 安らぐことを捨ててから――幾多の時代が飛ぶように過ぎ去った。
 人の世は変わり、流転し、神を忘れ去った。
 そして二千と余年。
『死』を迎えることを知らず。転生――脆く老いて崩れ去る肉体という器を、幾度も幾度も交換しながら、その果てしない時を生き続けてきた。この手を、重い使命という枷で縛られて、現代まで。……もう、楽になりたい。許されたい。
 その命を負う者を『御師』と呼ぶ。
 人の知らない古代は神話、歴史の真実。
 神代世界が裂けたとき――彼らは常世豊葦原に生を受けた。世は、戦乱の始まりの時代。
 それは、暖かい誕生の記憶ではなかったし、安らかな母との出会いの記憶でもなかった。彼らは母体から生れ出た者ではなかったし、人でもなかったのだ。
 炎獄――緋い火の海が、あたりを染め上げた。それが、最初の記憶。神々の愛みの証しのはずである地には悲鳴と哀願が満ち、豊かな瑞穂の国が、戦場へと変貌を遂げた。
 反乱が、起きたのだ。歴史にそれを『国譲』と。
 神々の郷高天原の帝であり人の子らの地豊葦原の統治者天照大御神に弟神・建速須佐鳴命が大国主命・穴牟遅とともに反旗を翻したのだった。須佐鳴を主神とする出雲神族はこぞって伊勢神族に離反した。統治権を主張する双方は、互い譲らなかった。沢山の人が死に、大地には累々たる屍が満ちた。風はいつも生臭く、血の匂いが絶えなかった。炎がどこかで邑を焼き払い、幾つもの命を奪った。 やがて戦局は大きく変化する。穢れの大地で戦局をさきに捩じ曲げたのは、須佐鳴率いる出雲神族だ。豊葦原を支配下に置くために、彼は大国主と奸計を用いた。須佐鳴の母神であり、黄泉の統治者である伊邪那美を封印せしめ、本来禁忌である死者の国『黄泉』と『豊葦原』との門扉を開いたのである。それは恐るべき事態だった。