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さかきち@万恒河沙
さかきち@万恒河沙
novelistID. 1404
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Light And Darkness

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「なーんてね。夜はやっぱり怖いわよ。でもいちいち気にしてたら病院勤めなんかやってられないでしょ。この部屋はね……いってみれば開かずの病室よね。あまりにその手の話が頻繁なもんだから、なるべく使わなかったのよ。余裕あるときは。ただ、あなたたちが担ぎ込まれたときには病棟もこみあってて、二人ともどこでもいいっていう話だったんでしょ?」
 でしょといわれても。本人たちは、そのときは意識不明の重体だったはずだ。
「だから空いてる部屋に入れちゃったのね。まあ、たいがい一週間も何もなかったことなんでないんだけど、鈍いんだかなんだか……あなたたちには感心してるわよ、みんな」
「……」
「内科部と外科部。ああ、それとレントゲン科の先生方が、いつ病室を変えてくれと言い出すかって、賭けしてるらしいわよ。せいぜい頑張ってね。ついでにあたしは退院までいるって賭けてるからね」
 言葉がない。
「じゃ。もうすぐ食事だから。今日も残さずきちんと食べるのよ」
 締めの台詞ときたらまるで幼稚園の先生のそれだ。ごくごくあっさりと、そういって彼女は出ていってしまった。
「……」
 義貴が肩を竦めている。悠弥は真白い天井を仰ぐようにして、睨みつけた。


 その日、昼過ぎにやってきた由美子は弟の病室がそういう代物だという話を聞くと、ごくごく納得顔で頷いた。
「どうりでね。でぇもねぇ、そんなの気にしてたら身が持たないでしょう」
 今日の御見舞いの品は、某有名メーカーのチョコレートケーキであった。といっても、悠弥にはどこがどう有名なのかわからないのは悠弥がその手のものに無頓着だからだろう。 由美子は多忙な毎日の中、ちょっとした空き時間に病院を訪れる。わりにまめで、差し入れも毎回、手を変え品を変え選んでくるあたり、仲のいい姉弟だと思う。実に微笑ましい。……ほんの少し、羨ましい。
「ま、何事もないんだからいいんじゃないの? 義貴あんた、そういうの全然平気でしょ」
 しれっと彼女がいうには――だからどうということはない、らしい。
「おもしろそうじゃない。幽霊に遭ったら恨みごとのひとつも聞いてやんなさいよ。世の中いろいろと泣き寝入りする人も多いことだしねぇえ?」
「……姉さん……」
「ちがいないですね」
 肩を揺らして笑いながら、悠弥は窓際義貴のベッドの側、アルミサッシから寄りかかるように身を乗り出した。