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さかきち@万恒河沙
さかきち@万恒河沙
novelistID. 1404
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Light And Darkness

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「幽霊ですか?」
 ふむ、と悠弥は唸る。世の中には様々な概念が繁雑に拡散していて、扱いに困る。正確にいうと、幽霊という概念には、悠弥自身は賛成しかねる。……が。
「理恵は、怖くて懐中電灯を向けられなかったっていうのよねぇ。動けなかったって。それでその音は階段を下って、消えちゃったっていうんだけど」
                      ? ツ> 「……消えた?」
「そう。だんだん遠ざかっていったっていうのよ。はてさてその怪音の正体は何か……ってね」
 彼女がおどけてそういったとき、悠弥の脇の下で体温計が鳴り出した。
 取り出して、手渡す。
「ふぅん。……三十六度ちょうど」
 ケースにおさめて彼女がメモを取ると、義貴の方でも電子音が鳴り出した。
「はいはいはいはーいっ」
「毎日ご苦労様です」
 いちいち折り目正しい患者である。……悠弥はいつも、疲れないのだろうかと思ったりするが、約一週間にわたる観察から推測するにあれがまぁ、ごく自然体なのだろう。
「こっちも平熱ね。よしよし」
 メモを取り、仕事を済ませたとばかり元気よく踵を返す看護婦――ふと、悠弥は彼女を呼び止めた。思うところがあった。
「あのさ、看護婦さん」
「なに?」
「ここってさ、結構大手の病院でしょ。なんでこの部屋、おれと大伴さんしか入院ってないのかな」
「ああ――それはねぇ。いいところに気がついたわねぇ」
 前々から思っていたことだったのだが、看護婦はすると、にまりと口許を緩めた。目が、実に愉快そうに笑っている。
 それから彼女は、おもむろに声を低く落とした。
「ここ、二階でしょ。下がねぇ、霊安室なのよ。だからかしらねぇ、ここの病室は『出る』ってので結構有名なのね。きのうの幽霊騒ぎも、やっぱりこの下の廊下なのよねぇぇ」
「……人を脅かして愉しそうですが、そういう看護婦さんは、怖くはないのですか?」
 そういったのは、義貴だった。彼女は肩越し振り返って、くすくす笑った。
「そうねぇ。いい加減慣れちゃったわね」
 慣れるのか。