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さかきち@万恒河沙
さかきち@万恒河沙
novelistID. 1404
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Light And Darkness

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 敷いて犯し、死に追いやった……忌まわしい罪と傷の記憶。時を重ねても、薄れない痛み。
 これは……夢だ! 夢なんだ……!


 逃れたい……それだけの一念で、悠弥は目を覚ました。
「……は……ぁっ」
 上半身を起こす。汗ばんだ手で自分のシャツの胸ぐらをつかみ、荒い息を大きく吐き出すと、現実へ戻ってきたのだと深く安堵した。 学校の屋上だった。汗に濡れた額を平手で拭いながらふり仰ぐと、初夏へうつろう春色の淡い空が広がっていた。空を眺めて高崎悠弥はもう一度、嘆息した。午前の授業をすっぽかし、校舎の屋上は日陰を選んでとあるモノを待っていたはずだったが、いつのまにやら眠りこけている間だいぶ日は傾いており、直射日光の下である。寝苦しいはずだ。
 ……とにかくいま見た夢のことは理性で忘れておこう。いまはそんな暇はないのだ。
 この春晴れて中学三年生になったばかりの悠弥が、授業にも出ず屋上にいるのには、ふたつの理由があった。
 ひとつは諸般の事情から高校に進学するつもりも気力も、余裕もないということ。
 いまひとつは――他人には言えない厄介な秘密絡みで。とあるモノをこの場所で待っていたのだ。
 そうする間に、眠りこけてしまったらしい。……最近、家に帰ると何かと多忙で睡眠時間が取れないのだ。複雑な家庭事情というやつである。
 刹那。
「……ようやくのおでまし、か」
 申し訳程度の古びた柵を背に、待ち人到来とばかり、悠弥は機敏に立ち上がった。何を思ってか幼さもいくらか残る端整な口許を歪めて、不敵な笑みを唇に刻む。瞳は、しかし厳しく真率だ。
 最初の兆しは気配だった。
 す……とコンクリートの足場に間合いを取って、身構える。そうするうちに、そいつはそこに顕れた。何もない空気の中から、何かが滲むように揺らぎ、陽炎になったかと思うとみるみる形になる。それは、常人が見れば笑い出すか卒倒するかのどちらかと思われる、異形の生物だった。丈はゆうに悠弥を凌いでいる。いまのいままで何もなかったその日常空間に、突如自然の摂理を捩じ曲げて出現したのは、『みずち』という化け物だった。様態は、ひとくちには……竜、とでもいうべきか。ともあれ酷似すれども竜の下級種族である妖怪変化の古来よりの呼称である。