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さかきち@万恒河沙
さかきち@万恒河沙
novelistID. 1404
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【勾玉遊戯】inside

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ACT,6





 警察がやってきた。
 三条祐一が自分で呼んだ。電話をしながら、こんなときに意外と自分が冷静でいられることに少なからず驚愕を覚えた。
 救急車はもう、呼んでも仕方がないと、思ったのだ。
 蓋し  死体には、必要ないものだから。
 深夜だというのに、警察はすぐにやってきた。
 あの嫌なサイレンの音が遠くから響いてきたときは、子供の頃に眠れなかった夜を憶い出した。瞼の裏に広がる、真っ赤な不安の色を、憶い出した。
 夜中に聴くあの音が、嫌いだった。
 遠くなったり近くなったりしながらそれが通り過ぎ、歪んだ響きが消えて行くのを、布団の中で待ったものだ。 子供の頃の祐一は、あのサイレンが何処かで鳴ると、必ず目を覚ましてしまったものだ。
 コートを羽織り、玄関の常夜灯の下で、祐一はそのサイレンを――待った。
すべての真実を明らかにしてくれるはずの、救いの御手を。
 そして――制服を来た警察官達が、無遠慮に自宅に侵入してくるのを、いま祐一はぼんやりと見ている。
 銀色のケースを抱えた制服の警察官の他に、背広を着た警察官もいた。
 刑事、というやつなのだろう。
 制服の警察官は、その刑事らしき人物の指示に従って、何か作業を開始している。
 その制服の上着の背中には、『警視庁』の文字が見て取れた。
 ああ、本当に警察官なんだな、などと祐一は見当外れなことを思う。
 封印されていた蔵は開け放たれ、見知らぬ人達が出たり入ったりしはじめる。
「三条……祐一君?」
「君が、電話をくれたんだったね」
 紺色の制服を着た二人の男たちが、祐一に近付いてきてそう言った。
「はい……」
 祐一は頷いた。
「ご遺体は、妹さんに間違いないの?」「はい。……三条美佳です。間違い……ないです……」
 男は、白い手袋を嵌めた手で、黒い手帳に何ごとかメモしているようだ。
何が起こったんだ……?
 よく、わからない。祐一は軽く自分の頭を振ってみた。それがまるで重く感じて、頭蓋の奥が鈍く疼いた。
 ――何でこんなことになったんだ……?
 妹の遺体が運び出されていくのが、見えた。
 担架と青いビニールシート。
 家族が。父が、母が、そして祖父が、玄関の前でうなだれている。
「じゃあ、君は家族の方、頼むよ」
「はい」
 祐一に質問していた男のうちのひとりは、先輩らしき刑事の言葉に頷いてそちらの方へ歩いていった。