小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

崩壊世界ノ黙示録

INDEX|1ページ/24ページ|

次のページ
 
崩壊世界の黙示録/プロローグ……Unknown 




――嫌だ、置いていかないでくれ。

 何故、俺だけがこんな世界に取り残されなくちゃならないんだ?悪いことなんかした覚えは無いが、あの時駄菓子屋の小母さんを騙して万引きしたのがそれだたのか?それの所為で、俺はこんな酷い目に会っているのか?
 いいや、違う。それなら、あいつだってあいつだって皆共犯者だ。それなら、皆も一緒に俺と居れるはずなんだ。

 じゃあ、何でだ?
 何だ?この、こっぴどくて薄暗くてみすぼらしくて寂しくて恐くておかしな世界は。まるで子供の頃に見たSF映画そのものじゃないか。

 揺れ動く灼熱の炎も。
 汚くにごりきった、魚の腐った死体が浮く水面も。
 根こそぎ新芽を奪われた巨木も。
 この、よくわからない色の無い濃霧も。
――俺も。
――世界も。

――全部、俺が見せられている現実か?この、悪魔のような森羅万象が現実だというのか?

 孤独すぎる。惨め過ぎる。

だとすれば、俺をこんな目に会わせたのは誰だ?
 人間か?
 俺自身か?
 それとも、友達だった誰か?


――いいや、違う。

――世界だ。世界が、俺をこんなにも孤独で惨めな存在に仕立て上げやがった。


――だったら、だったら、この嫌味たらしい世界を生き抜いてやる。生き抜いて生き抜いて、全力で生き残ってやる。

大嫌いなこの世界を生き抜く。絶対に、何を犠牲にしてやろうとも。



――――世界なんて、大嫌いだ。









崩壊世界の黙示録/01……荒廃した世界……











 第7区≪ティファレト≫の、廃墟と化したビルの一室。硝子の無い窓から見えるのは、無限に広がる大空。それはまるで血の入ったバケツをひっくり返したような、至極不気味な赤色をしている。太陽が地平線の彼方へと傾いているところを見るに、きっともう夜が近いのだ。

 そんな真紅を背景にして佇むのは、既に崩壊する寸前となった巨大な塔。天を貫くように屹立するそれは、かつてこの一帯が非常に栄えた都市であったことを示している。数世紀前までの此処はきっと活気に満ち溢れていて、数多くの人類が生活していたのだろう。
――けれども、今その繁栄は無きものとなってしまっていた。その繁栄を築き上げた自分達が招いた≪ハルマゲドン≫という破滅によって。

(トウキョウ、か)
 何百年もの間を風雨に晒され、崩壊寸前に成り果てた建造群を望む小さな瓦礫の山の上。少女は、すぅっと駆けて行く放射物質に侵された風を、腰まで伸ばしたその青い髪に受けながらも、あることを思い出していた。かつて此処は≪ニホン≫と呼ばれていたらしいということ、そして目の前に佇んでいるあの 巨大な塔は、その首都の象徴だったということ。恐らくは沢山の人間で埋め尽くされていたのであろう都市には、最早人の影は見当たらない。
 
 その時、ザザザっという耳障りな音が鼓膜を震わせた。半ば鬱陶しい気持ちになりながらも、少女は耳掛けの通信機に手を伸ばす。
『こちらパルト。どうかな、聞こえる?』
 少女の流れるような髪を除け、耳に装着された小型の通信機から聞こえてきたのは、少女よりも随分と若い少女の声だった。随分と聞きなれた声ではあるが、こうして誰も居ない空間で聞くと新鮮に感じる。
「こちらアシエ。感度良好」
 少女――アシエ・ランスは、殆ど何の感情起伏も無い声で、必要最低限な事だけをその潤った唇から吐き出した。そんな愛想の無さにも慣れているのか、パルトは、先程と変わらぬ気優しい口調で応える。
『オッケー。前みたいなことにならなくて良かったわ』
 『前』というのは、恐らくこの前の任務を指して使われたのだろう。
 あの時は確か持ってきていた通信機が故障し、基地に帰還するのが予定よりも1週間ほど遅れたのだ。実際、あれは相当辛かった。
 少女はそんな、憂鬱な事件の思い出を掘り起こされ、少し不機嫌になった様子で口を開く。

「そんな事は今関係ないでしょ。それより、任務のサポートをお願い」
『わ、わかった。じゃあ説明するわね…………――』
 それ以降、アシエは自らの口を一切開くことなく、耳元から雑音と共に聞こえてくる少女の声に耳を傾け続けた。その間にも夕日は刻々とその姿を地平線の彼方へと沈ませていく。まるでこの世界に、別れを告げるかのように。
 その光景を見ながら、通信機から聞こえてくる仲間の声に耳を傾けながら、アシエは心の内で憂鬱の息を吐いた。
(現にもう別れは告げられた、か)
――言葉通り、この世界は既に一度滅んでいる。否、滅んだに近い……というべきだろうか。
 現在から数世紀も前の話。後に≪ハルマゲドン≫と呼ばれる、人類の核兵器による全面戦争によって。
 その折、核兵器に含まれる放射能という汚染物質はこの『地球』という星の中を汚しつくした。生物の体内を汚染し、死に至らしめるという災厄を。
 
 しかしこの際、人類を予期せぬ事体が襲った。何発もの核兵器が撒き散らした多量の放射能が、遂に進化を遂げたのだ。

――呼称≪結晶放射(レジスタフティ)≫。それが、脅威性を増して登場した、『物質』だった。
 ≪結晶放射≫は、限りなく気体に近い『物質』である。進化の理由は、元々蓄積されていた多量の放射能が遂には分子以上のレベルで結合し、空気中でn(ナノ)以下の微粒子結晶と化したと言われている。
 大気に含まれる酸素や二酸化炭素と丁度同等程の重量を持ち、無色透明で宙を無数に舞っているそれは、人類にとっては有害な毒でしかない――が、今この星に存在している、さしずめ≪新人類≫は、滅びを感じた旧人類によって肉体改造を施された少数派の子孫である為、それを体内で無効化、様々な方法で空気中に排出する働きを持つことに成功していた。
 その為病気にかかり、免疫力を極端に下げなければさほど脅威でも無し、寧ろ新人類はこの結晶放射を利用した生活を身に付けていた程だったのだ。

「いいわ、どうやら向こうからお出ましみたい。『飛んで火に居る夏の虫』っていうのは、このことね」
『え?な、なにが――……』
 アシエは呟くと、無理矢理に通信回線を切断した。ぶつり、という耳障りな音共にパルトの声も雑音も一切が聞こえなくなる。
 パルトの可愛らしい声が聞こえなくなって代わりに耳に入ってきたのは、凶悪極まりない複数の声だ。互いを奮い立たせるような音を上げ、カチカチと歯を鳴らす。
 この数世紀の間に結晶放射に適合化し、独自発達を遂げた地球生物――≪愚者(アレフ)≫。それが今、少女の背後で唸り声を上げているのだ。
 少女は咄嗟に振り向くと、腰のホルスターから大口径のマグナム拳銃≪結晶器(クリストロファー)≫を取り出した。既に弾倉への結晶放射充填は済ませてある為、弾切れの心配は無い。
「そこっ!」
 アシエは、不意に死角から飛び掛ってきた1匹の愚者の顎部を、合金仕込みの安全靴によるサマーソルトで蹴り抜く。見事に頭部は頚椎から砕け、首のみを宙に吹飛ばした。
作品名:崩壊世界ノ黙示録 作家名:むぎこ