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こがみ ももか
こがみ ももか
novelistID. 2182
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彼女を幸せに

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都和子はひどく手の小さな女だった。
およそ、あんな子どものような大きさの手のひらで二十も三十もの男を転がしたとは信じがたい。しかし家を出て、働きもせずふらふらしていた彼女がいつも身なりよくいられたのはつまりそういうことなのだろう。強気な性格がそのまま反映されたように凛とした佇まいをした彼女は、どちらかといえば柔和なほうに分類される目鼻立ちが気に入らない様子だった。
都和子とは幼馴染だったが、中学、高校と進むごとに真面目一辺倒の自分とは間逆、放埓な生き方を選んだ彼女とは疎遠になっていった。
再会したのは、社会人になってからだ。
いつの間にか手を握るような関係にもつれ込んでいた。その小さな手はやわらかく、指自体は長いのだが手のひらが狭い。ふっくらした親指の付け根を撫でるのが好きだった。
――結婚してくれる? 子どもができたから。
そんな奔放な彼女が神妙に頼んできたのには、本当に驚いた。都和子のような女に「誰の子ども?」と尋ねることほど不毛で野暮なことはなく、黙って頷いた。それでも表情に不安が滲んでいたのかもしれない。
――他の人の子ならその人のところに堕ろすお金ちょうだいって言いに行ってるでしょ、今ごろ。
あなたの子ども以外いらない。遠まわしにそう言われ、素直に嬉しい反面やはりどうにも疑いは晴れずにいた。幼馴染という、過去気の置けない間柄だった思い出につけ込まれ利用されているだけなのかもしれない。考えなかったわけではない。
勘繰った上でも、選ばれたというだけでよかった。
生まれた子どもは女の子で、顔を見て瞬時に「ああ、都和子の子だ」と思った。柔らかな目元と、控えめな唇。自分の子どもだとはまるっきり信じられなくても、それだけで愛せるような気になっていた。
現に、幸せだったのだ。都和子は他の男を完全に切って、いい母親でいたし、険のようなものが剥がれて穏やかになった。「家庭」の持つ力を実感し、嬉しくもなったものだ。
「ごめんなさい」
たった一言の書置きだけを残して都和子が行方をくらましたのは娘が二歳になったころだった。歩いて、喋るようになった、かわいい盛りだ。乳離れをとっくにして、食べ物のおいしさを知るころ。
作品名:彼女を幸せに 作家名:こがみ ももか