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だいなまいと そのいち

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仕事中は携帯に出ない。というのが、建前ではあるが、マナーモードにしてあるから、カタカタと机の上で飛び跳ねる。ワン切りや急がない相手なら無視していると、勝手に留守電になるのだが、無視してはいけない相手もある。
 カタカタと鳴っている携帯の相手を確かめたら、とんでもないヤツだったので、慌てて廊下へ走り出た。
「もしもし? 」
「「・・・おお・・・・出よったか? 」」
 相手は鷹揚で高飛車だ。これはいつものことだ。気にしてはいけない。
「なんかあったんか? 」
「「いやいや、時候の挨拶を、ばな。」」
「なら、切るぞ。」
「「まあまあ、待たんかいな。腹の傷は痛むんか? 」」
 相手の言葉に、はっと気付いた。それは、相手に入院の事実を知られているということだ。ぐっと言葉に詰まったら、相手はからからと笑っている。
「なんで知ってる? 」
「「ああ、心配せいでも、あれからやないわ。あれは微塵も気付いてない。・・・・・まあ、なんていうかなあ。いろいろと情報というのは交差しているわけよ。しかし、こっちに、連絡がないのは、ちぃっとばっかし薄情なんやないか? 」」
 薄情? なんで、そんなこと言われなあかんねん、と、俺は怒鳴りそうになったが、こらえた。さすがに、職場の廊下で喧嘩するわけにはいかない。
「こっちで処理できたからや。あんたには関係ない。」
「「まあ、そうやけどな。そういう時こそ、連絡すべきやないか? そういうことやったら、あれを連れて出張しとくこともできるんやさかいな。 ほんなら、無理して一週間で退院せんでもよかったやろ? 」」
 確かに、そういうことだ。この相手が、俺の嫁の上司であるから、小細工するなら、そういうことも可能だろう。だが、ここで借りなんぞ作ると、後々が厄介だ。
「別に無理してへん。あんたに借りを作るぐらいやったら、多少の無理するほうが楽に決まってるからや。」
 はっきりと、そう言うと、相手は電話の向こうで楽しそうに笑っている。それから、ガラリと声を変えてきた。
「「相変わらずのようで安心した。あれには気付かれてへんから、安心したらええ。もし、どうしても、の時は声をかけてくれ。」」
「わかってる。・・・・せやせや、あんたら、ちょっと、俺の嫁を働かせすぎや。ええ加減にせいよ。」
「「そういや、仕事が増えすぎてるかもしれんなあ。あんたが来て助けたったらええんと違うか? 」」
「どあほ、その手に乗るかいっっ。俺は、家で待つほうがええんじゃ。」
 以前から、ずっと、誘われているので、こんなことは慣れっこだ。だが、それだけはしない。定時で帰って、家で待っているほうがいい、と、俺は思っている。同じ職場では、それは難しいだろう。相手だってわかっていて、からかっているだけだ。
「「まあなあー、それはわかるんやけど。」」
「用がないなら切る。とりあえず、深夜残業は、やめさせろ。」
「「わかったわかった。調整しとくわ。」」
 一年に何度かかかってくる電話ではあったが、相変わらず過ぎて笑ってしまう。あのおっさんのお陰で、俺は背中を押されたのだと自覚している。ある意味、縁結びの疫病神だ。思い返すと笑ってしまうぐらい子供じみたことをしたのだ。





 誰にでも、ムシの好かないやつというのがいる。うちの同居人は、意外にも、そういう人物は少ないが、それでも我慢ならないヤツというのは存在する。
「どや? 今夜は、しっぽり、おっちゃんと夜明けのコーヒーでもせーへんか? 」
 職場で、パソとニラメッコしていたら、背後から、ぽんと肩を叩かれた。それも、うそ寒いほどの親父台詞付だ。
「それ、なんぼほどで? 」
「まあ、クソガキの使い古しやから、片手くらいで、どや? なんなら、スイートルームとかルームサービスはつけさせてもらうで。」
 とりあえず、軽めにノッてみたら、やっぱり、返事も寒かった。今時、スイートとかルームサービスって・・・・どこのバブリーなおっさんやろうと呆れる。
「中古品なんで、遠慮しますわ。」
「いややなあー、ドンペリのピンクもつけてるでぇー、みっちゃん。」
「それで釣られる女の顔が見たいですわ、堀内さん。」
 今は、直属ではないが、上司ではある堀内は、昔から、こんなことばかり言うので、俺も慣れっこだ。昔は、本気で尻を揉んでいたこともある。
「新地のおねーちゃんは、これで釣れるんやけどなあ。みっちゃんは、身持ちが硬いから、かなわんわ。」
 となりの席に、どっかりと座り込んだ堀内は、ちょっと堅気には見えない服装をしているが、一応は、俺の会社の幹部ではある。今は、本社が中部にあるから、そちらに詰めているが、たまに、こちらにも帰ってくる。
「身持ち? そんなん、あったかなあー。」
「あるがなぁっっ。おまえぐらいやで、俺を十数年も袖にし続けてるんは。」
 やれやれと、大袈裟に額に手をやって頭を振っている。こういう格好が、よく似合う親父ではある。それから、いそいそと俺の太ももに手を置くあたりが、なんとも如何しがたいほど、手癖が悪い。
「どや? そろそろ、倦怠期とちゃうか? もうええやろ? 新しい世界へ、おっちゃんと行こうやないか。」
「すいませんね。たぶん、あんたと一晩過ごすって言うたら、うちの旦那が、とんでもない暴挙に出ますけど、よろしいか? 」
「まだ、そんなにラブラブなんか? おまえらはっっ。ええ加減に冷めたら、どないやねんっっ。」
「・・・・ラブラブ?・・・・」
「そら、ラブラブやろ? まだ、あいつ、おまえの帰りを家で待って、メシ作ってるんやろうが? 」
「あーまーそうですね。」
「ほんで、『あーん』とかしとるんちゃうんかい? 」
「いや、・・・あ・・・そういや、やってるか・・・」
「風呂も一緒、寝るのも一緒やろ? 」
「いや、風呂は狭いから、それほどは・・・・」
「日々、寝不足になるほどいちゃいちゃしとるんちゃうんか? 」
「そこまでは、してないと思うんやけど。」
「ほんだら、その目の下の隈はなんじゃ? 」
「これは、残業続きで、こうなってるんですわ。なんせ、俺、ここんとこ、仕事が山積みで。」
「ふーん、ほーそうかそうか。おっちゃんが聞いたとこでは、おまえ、日曜は寝たきり老人並みに介護されてるらしいやないか? 」
「・・・・え?・・・ここんとこは、そんなことは・・・・なんせ、あいつ、年一回の繁忙期で、俺より遅かったし・・・・ていうか、人のとこの夫婦生活を、なんで調べるんかなあー、このおっさんは。」
 と、そこで、はっと気づいた。ということは、だ。このおっさん、俺の同居人に連絡を取ったということだ。
「あんのクソガキも、しつこいわ。もう、そろそろ、俺にみっちゃんを返してくれてもよさそうなもんやのに。」
「また余計なことを・・・・なんで、電話するんやっっ、堀内さんっっ。」
 俺の旦那は、過去、この堀内といろいろとあって、この男が苦手だ。たぶん、今夜は機嫌がとても悪いだろう。下手をすると、明日、俺は、寝たきり老人にされるかもしれない。
「ぷぷぷ・・・明日は休みやから、倦怠期夫婦の営みに、ぴりりとしたスパイスを投入したろうと思って。元彼からの愛やないか。」
「誰が、モトカレじゃっっ。」
作品名:だいなまいと そのいち 作家名:篠義