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えぷろん

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 空腹であると、それ以外のことは、どうでもええということになる。さっさと風呂に入り、飯を食った。冷やしブタしゃぶを、ごまだれで食いつつ、本日のエプロンについて説明したら、嫁は呆れていた。
「なんていうか、理想と現実のギャップっていうのが、ものすごいあるらしいな。」
「あるんちゃうか? 」
「よう考えたら、それやるんやったら、俺がやるんやろ? おまえ、見たいか? 」
「いや、もうええわ。それやったら、今のほうがええ。」
 Tシャツに短パンという格好で、首にタオルをかけている嫁の姿のほうが、何倍かそそられる。
「たまには、縛ってみるとかしたいんか? 」
「え? 」
「したかったら、付き合うけどな。」
「・・・ごめん・・・たぶん、面倒やから、ええわ・・・」
 縛ったりすると、動かすのが厄介だ。同意の上なのだから、できれば、スムーズに、お互いで動いたほうが楽である。いくら鶏がらな嫁でも、大の男となれば、体重は結構ある。持ち上げたりするのは、勘弁して貰いたい。
「おまえを縛ったら・・・あ・・・そうか・・・それも面倒やなあー・・・」
「せやろ? 普通でええわ。それぐらいやったら、おまえにいろいろと囁いてもらうほうがクるもんがあるて。」
 そう言ったら、嫁は、また肩を震わせて、「乙女やな? 」 と、笑った。釣られて、俺も笑う。別に、難しいことをやっているわけではない。ただ、お互いの言葉と体温が感じられたら、それでいいんだろうと思う。十数年も、こうやって暮らしているのだから、そんなものだ。
「俺、たぶん、もう女とやることはないやろうけどな。・・・・女とも、そんなことはしたいと思わへんで。」
 しみじみと、嫁がそう言って苦笑した。若い頃なら、いざ知らず、確かに、そんなことはしたいと思わない。
「理想と現実の違いということにしとこか? 」
「おまえは、外でやってきてくれ。」
「はあ? 」
「たまに、とんでもないことするやないか。ああいうことは、外でやってくれ。」
「いや、もしもし、水都さん? それ、浮気推奨なん? 」
「浮気はかまへんで。本気やないんやからな。」
「おまえこそ、そんな乙女チックなこと言うし・・・なんで、わざわざ外でしてこなあかんねんっっ。ここに、嫁がおるっちゅーねんっっ。板間で襲うぞ、俺の嫁っっ。」
「あーそれ、堪忍やっっ。膝と踵が痛ぁーてかなわん。尾てい骨に痣ついて、かなんよ、あれ。」
 露骨なご意見を吐いてから、俺の嫁は、ニヤニヤと笑って、「ベッドやったらええよ? 」 と、のたまった。
・・・・そんな誘い方せんでくれ。後片付けしたぁーなくなるやんけっっ・・・・
 自覚のない誘いが、一番萌えるかもしれない。エプロンは、どうも性に合わないことが判明した。いや、御堂筋に報告したりはせぇーへんけどさ。
「そういや、昔な。堀内のおっさんが、猫耳と首輪をくれたことがあったけど、あのおっさん、あれで欲情するんやろうかなあ。」
 ぽつりと、そんなことを、俺の嫁が口から漏らした。まあ、あのおっさんは、かなりおかしいから、それでそそられるもんがあるのかもしれない。しかし、鶏がら嫁に猫耳と首輪って・・・・。
「・・・あかん・・俺にはわからん。」
「心配せんでも、俺にもわからん。あん時は、金をくれるっていうから、つけたっただけや。」
「え? つけたったぁー? 」
「うん、三万ほどくれたで。おっさんは金持ちやからな。」
「怪しいバイトしてたんやな? 」
「そうか? 膝に座って、『にゃー』って言うだけで三万やで? 普通、するやろ?」
「・・・せぇーへんと思う・・・」
 昔から壊れていたので、価値観とか倫理観がかなりおかしいことは知っていたが、やはり、こいつは、かなりおかしい。そして、こいつの元上司も、かなり変態なんだと知っていたつもりだったが、それほどとは知らなかった。
「さすがに、俺が三十路越えたら、そんなん言わへんなったわ。」
「当たり前じゃっっ。」
 やれやれと立ち上がって、食器をシンクへ運んだら、背後から、嫁がやってきて、「にゃあ」 と鳴いて、となりに並んだ。
「俺は猫飼うつもりはないで。」
「俺は飼ってもええで。にゃあにゃあ鳴いて帰りを出迎えてくれるんやったら、おまえが猫でもええ。」
「飼われるなんてイヤじゃっっ。・・・ああ、年金貰える年になったら、ふたりで猫みたいに暮らしてもええかな。」
 猫みたいに縁側で昼寝して、だらだらしているのは楽しいかもしれない。たぶん、その頃には、もっと俺の嫁は壊れていて、何にもわかんなくなっているかもしれない。「にゃあ」 しか言わなくて、言葉すら話さなくなっていたら、世話するのも楽しいだろう。
「『にゃあ』ぐらいは言うてくれな。」
「はあ? 」
「何にもしゃべらへんのは寂しいやんか。」
「・・・しゃべるがな・・・たぶん・・・」
「わからへんで、おまえは、ものぐさやからな。全てを、『にゃあ』で済ませるで。」
「あーそれはあるかもしれへんなあ。でも、ええやんか。花月は、それでも意味がわかるやろうからな。」
「そうなってるように努力するわ。」
 片づけをやりつつ、こんな会話をしていること事態が、すでに、裸エプロンとは違う世界にいるんじゃなかろうかと、俺は思った。
作品名:えぷろん 作家名:篠義