花月水都 そのいち
「そうか? 寝れたらええんやから、こんなもんやろう。」
結局、コンビニで弁当とお茶を買って、その部屋を訪ねた。とりあえず、どんな場所なのか知りたかったからだ。テレビも年代モノのやつで、リモコンがない。
「音はいるか? 」
「いいや、なくてええ。俺、テレビは、あんまり見やへんねん。」
「ああ、俺もなんや。たまに、教育放送とかスポーツを見るぐらいや。」
万年床を部屋の隅に片付けて、ふたりして、弁当を食べた。本当に何もない部屋で、あるのは、教科書と思しき本と、図書館のタグが貼られた本ぐらいだった。
「休みは、何してるん? 」
「寝てる。後は洗濯したり近所を散歩したり、本屋で立ち読みするぐらいかなあ。おまえは? 」
「似た様なもんや。コンパとかある前は、服を買うけどな。」
「コンパかぁー、あれは面倒や。一回行って懲りた。・・・なんていうか、ゆっくりさせてもらわれへんのが辛い。」
「そうか? 呑んで騒いで暴れるっていうのは、ストレス発散すんぞ。」
「なんや、ストレス溜めてるんかいな? 吉本。」
「え? ないか? ほら、レポート重なったりとか、バイト先の人間関係とか、いろいろとあるやないか。」
「ないで、そんなん。」
「はあ? 」
まあ、後から考えたら、こいつにはなかっただろうと納得はした。誰にも期待しないから人間関係が疎ましいなんてことは感じなかったはずだからだ。ぽつんと、独りで立っているから、何にも支えられていないから、こいつは、揺れることはない。だが、本当は、それは寂しいことだということを知らない。
「なあ、浪速。今度は、俺のとこを探訪しようやないか。」
「・・・え?・・」
「うちも似たり寄ったりやけど、クッションとぬいぐるみがおるねん。」
「はあ? おまえ、そういう趣味なんか? 」
「ちゃうちゃう。うちのお袋の趣味なんや。でも、興味湧いたやろ? ついでに、こたつがあるで。」
「こたつねぇー。」 と、浪速は首を傾げていたが、次の週は、本当に提案に乗ってくれた。そして、彼は、こたつに入って、「これ、ええなあ。」 と、しみじみと呟いた。