正義と正義と正義
「そんな事よりも、お前のするべき事は巣の仲間の所に戻って巣の在り処を教える事だろう?」
セイヨウミツバチの巣から援軍が飛び立つのが見えた。その様は黒い霧のようで、さすがのオオスズメバチでも太刀打ちできなさそうな、多勢に無勢の数の差が押し寄せようとしていた。
「早く行け……!」
言われて、一匹のオオスズメバチは仲間を見捨てて飛び去った。
女王蜂の命でオオスズメバチ退治の援軍に来た衛兵蜂達は、明らかに何かの方法を知っていて、その上で動いているようだった。地面に落ちた二匹のオオスズメバチは、それを嫌と言う程思い知る事になった。彼女らセイヨウミツバチは、自分達がニホンミツバチと同じ蜂球で戦えない事を知っていた。それでいて、セイヨウミツバチ達はオオスズメバチの腹の周りに密集し、がっちりと固まっているのだった。腹を覆うミツバチが増えるにつれ、二匹のオオスズメバチはセイヨウミツバチがやろうとしている事の内容を突き止めた。セイヨウミツバチ達は、腹を圧迫する事でオオスズメバチの呼吸を止め、窒息死させようとしているのだ。
「くそっ、こいつらにも我らに対抗する術があったのか……!」
「生意気な奴らめっ!」
二匹のオオスズメバチは慌てて、腹の周りに集まっているミツバチを引きはがし、強靭な顎でかみ殺そうとした。しかし、時、既に遅く、ミツバチは引きはがしても引きはがしても次々とむらがって来た。一時間も経つと二匹のスズメバチの抵抗は弱くなっていき、やがて、かくり、と力が抜けた。ミツバチ達はそれでも油断なく腹を圧迫していたが、二匹のスズメバチに意識が戻る事は二度となかった。