The Lord Bless You and Keep Yu
『今一人』の腕(かいな)は、青年を抱きしめるために広げられた。
「さようなら、私を愛してくれた『君達』」
青年の腕も応えるように伸ばされる。
今しも触れ合おうとした刹那、互いの腕は無情にもすり抜けた。
気がつくと、青年は光を抱きしめていた。
両の腕には何もなく、ぽっかりと空いた空間に、生まれて間もない朝陽が満ちる。
何を抱きしめようとしていたのか、思い出せない。
その光が美しい故なのか、なぜだか彼の双眸は潤んでいた。
そうして青年は金色に染まった砂を踏みしめ、歩みを進める。
一歩、また一歩。
やがて彼の姿は、何処(いずこ)とも知れずに消え失せた。
雲海の高き淵より、『今一人』は去り往く青年の姿を、目で追った。
――泣くのではないよ。
あの子は天上を捨てたわけではないのだ。
あの子は地上を選んだのだ。
あの子が選んだあの道を、「生きる」と言うのだよ。
『今一人』に、深く暖かい声が降り注ぐ。
しかし、地上に心が釘付けの彼の耳に、その声の入る余地はない。
声は構わずに続けた。
――おいで、私の可愛い子供。
おまえの記憶は、私が引き受けよう。
悲しい色の瞳など、『おまえたち』には似合わない。
声は見えない手に変わり、『今一人』の双眸を塞いだ。
天を往くもの。
地を往くもの。
いずれの姿もすでになく、ひと時、色を与えられた砂漠が、ただ広がるばかりであった。
The Lord Bless You and Keep You
(神があなたを祝福くださり、護ってくださいますように)
作品名:The Lord Bless You and Keep Yu 作家名:紙森けい