クローゼット・ティータイム
それは、まだ幸せが残っていた頃の記憶。白いテーブルを囲んで、私とユミちゃんとマーチでやった、たわいのない幼い遊び。美味しそうにおやつのケーキを食べるユミちゃんを、私は少し、羨ましく思ったものだ。
食べて、動いて、生きる。生き物にとっては当たり前のことだが、生き物のニセモノである私にとって、それは羨ましいことだった。
「楽しかったね」
反射的にそう、言葉を返す。たとえ虚しく響いても、それしか言えなかった。決して嘘ではないけれど、それだけじゃないこの気持ちをどう言葉にすればいいのだろう。
彼には、彼にだけは伝えたいと思うのに。
「だから、今度は二人で、本物のお茶会をやりたかったんだ」
穏やかな、けれど熱を孕んだその声は、私に真実を悟らせた。
私の心など、とっくに彼は見透かしていたのだろう。そして、私と同じ事を想っていたのだろう。
彼は私の願いを叶えてくれた。
私は、彼の願いを叶えることができただろうか?
愛しさが胸をこみ上げてくる。これは、ユミちゃんへの想いとはまた別の、まるで生き物が抱くような気持ち。マーチがささやく愛の意味が、やっとわかった気がした。
きっとこの世界が本物なわけはなくて、脆く儚い夢のようなものなのだろうけれど。私はこの、美しい夢の中で彼と生きていくことを決めた。
「愛してる、ユメ」
人が見るから夢は玻璃細工のように儚くなるのだ。
無機物の私たちならば、きっと、夢は永遠のもの。
「大好き、マーチ」
そう言って私は、両腕で彼を、しっかりと抱きしめた。
作品名:クローゼット・ティータイム 作家名:白架