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パラドックス

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「男と女。アダムとイブよろしくといいたいところだが、それは違う。その二人は最後の生き残りだった。地下にある冷凍睡眠も全部駄目になったのは知ってる。一部では生き残っているかもしれないが、エネルギーの暴走で、カプセルの中にある肉体がどうなったか……それにお前たちは知らないかもしれないが、あの世界が滅んだのは冷凍睡眠の暴走のせいなんだぞ」
 冷凍睡眠。永久の命。そんなものを夢見た馬鹿な人間たち。冷凍睡眠のいかれて暴走した光によって破壊された救いのない世界。
 ガメ子を抱きかかえあげて、ペペと供に私は歩き出す。あの白い建物のような機械を壊すために。これがあいつも妄想なのだ。
「どこにいくんだ」
 女の声がする。私の視界がざぁーと歪む。外部からの行為的なノイズ。男がたっている。白い白衣を身に纏った男だ。
「ここで暮らそう」
 男が笑う。私が好きだった笑顔だ。
「   」
 私の名。

 世界が狂っているのか。――本当は、この世界は壊れておらず、文明は発達し続けているのか――私が狂っているのか。――妄想なのか。――はたまた、これは、あなたの妄想の中で、私はあなたの妄想の作り出した一つなのか。

 ――ぐらがぁぁぁあん
 閃光のあとに叫んだ雄叫びは、本能からだった。全てが消えたのに、私とあなただけは消えなかった。
 世界すら壊れてしまったのに。これも遺伝子にかかれていた予測範囲。
 冷凍睡眠にかかるのは全人類だった。世界が再生不可能なほどにいかれてしまったから。そこでみんな寝ることにした。世界が生きやすくなるまで、おやすみなさい。
 そこでは全ての血を所持していた。クローンは作られる。私は、そのクローンのデータを全てもって、冷凍睡眠の機械を破壊した。そして、全員が死んだ。私と彼以外の全員が……さて、手元にある遺伝子の元を私はなにに使用するだろう? 簡単だ。神様になるのさ。世界は何度でも再生して繰り返す。遺伝子というデータにのっとって、人間は全て繰り返し生まれてくる。遺伝子にかかれたデータから逃れることもできずに何度も 何度も同じことを――これでこの世界は何度目だろうか。はじめてか。はたまた二度目か。もっと回数をこなしているかもしれない。

 私は、白い鉄の妄想まで急いだ。これがもし、遠目でのシステムを作用しているとすれば、これを壊せば、ここでの妄想は終る。
「なにをするつもりなの?」女が言う――この楽園を永久にしよう――あなたはいう。
 これももしかしたら遺伝子にかかれていたことか。はたまたあなたの妄想か。
「……ごめんだね」
 足元にいるペペがにゃあとなく。
「破壊しろ」
 ペペがにゃあと鳴き、その体から無数のコードが飛び出す。そうしてコードは、忌々しい白い機械を包み込み、音をたてて破壊される鉄くず。
 悲鳴が聞こえる。
 これは、私の妄想なのだろうか。
 ノイズが音をたてて消えていく。
 あなたは私を見ている。

 ――お前は、また世界を破壊した
 これは世界の夢なのか。はたまた私の妄想か。お前の夢か?
 ――そうして何度、世界を破壊する
 お前か私が死ぬまで――この妄想が終るまで、夢がさめるまではね

「ダーリン」
 ガメ子が腕の中で暴れるのに私は、ああっと思った。お前は本当はただの亀なのかもしれない。今頃は、海の中を泳いでいるのかもしれない。私が私のクローンとして作り出した人間以外の生き物などというものではないのかもしれない。それこそ、まさに妄想だ。
「なんだ」
「おなかへった」
「……そういえば、なにも食べてないな」
 腹は減った。だが、なにもない荒野になってしまい、あとにのこされた鉄くずをペペがうまそうに食べている。機械のくせに、鉄くずをたべるとはグルメなやつめ。
 喉がかわいた。からからだ。
 腹が減るうちは、これは妄想ではないのかもしれない。もしかしたら、あなたの頭の中で描かれた狂気的な妄想ではないのかもしれない。だが、どちらにしろ、私はあなたを見つけ出して、終わらせようとすしかないのだ。これがこの世界での私の遺伝子にかかれてある役目だから。――それこそ、妄想だ
作品名:パラドックス 作家名:旋律